景観形成地区の候補となっている『フェニックス通りから津なぎさまち』

 津市は県との協議の上で7月1日から景観行政団体となり、来年度中に独自の景観計画の策定・運用をすべく準備を進めている。広大な市域に豊かな自然と歴史が散りばめられた市域の特性を活かした景観づくりがより明確に行われていくこととなる。これから地域のニーズを汲み取りながら計画を具体化するが、未来へと受け継いでいくまちの『かたち』を決める骨子となるだけに、行政として明確な価値判断が求められる。

 日本では高度経済成長期以降、近年に至るまで周囲の街並や自然との調和などを考慮しない無秩序な建築物が建てられ、各地域が本来持っていた特色ある風景が失われていることが問題となっている。この流れを変えようと平成16年に国が施行したのが「景観法」。同法では全国の都道府県と政令指定都市を「景観行政団体」と定めており、三重県は平成20年1月に景観計画の策定・運用を開始している。この計画では県内を北勢・中勢・伊勢志摩・伊賀・東紀州の5地域に分け、それぞれの特性にあった景観づくりの目標を定めている。具体例としては、高さ13m以上の大型建築物の建築確認申請が出された場合地域の景観とマッチした色や意匠にするよう施主に対して配慮を求めることなどが挙げられる。
 また、よりきめ細やかに地域特性を反映した景観行政を行うため、県と協議を行えば市町村単位で景観行政団体となることも可能で平成18年の伊賀市を皮切りに現在県内の8市が独自の環境計画を運用している。
 津市も平成21年から「津市景観づくり懇談会」を観光協会・建築士会などの団体関係者や市民から公募したメンバーと共に開き、協議を重ねており、その成果もあって今年7月に環境行政団体となる予定。平成26年度中に独自の環境計画を策定・運用をめざす。
 津市の市域全体の景観特色としては海山川といった豊かな自然にも恵まれ、街道筋の宿場町として栄えた街並なども残っている。計画は市域全体が対象となるが、その中でも、歴史的に価値の高い建造物や街並が残っている津城址周辺・一身田寺内町・榊原温泉・芸濃町楠原・美杉町多気・同町奥津・同町三多気に、津市の顔ともいえる役割を果たす津市のフェニックス通りから津なぎさまち・津駅東口周辺・同駅西口周辺を加えた10地区を重点的な施策に取り組む景観形成地区の候補として挙げている。これから地元との協議に入り住民サイドの要望を汲み上げながら計画を具体化していくこととなる。また、この中から、更に細やかな規則を設けて、街並の保存など、踏み込んだ施策も視野に入れた重点地区をつくっていく構想もある。
 市は計画の具体化に当たり、市民から最大限の合意を得ることを第一としており、県の景観計画と同じく一定以上の高さの建築物に対して色や意匠などの規定も設ける(一般家屋などの小規模な建造物は計画の対象にはならない)が、規定を無視しても、建築基準法などの法律に抵触しない限りは建築そのものを止めるほどの強制力はない。
 しかし、自ら定めた計画を運用し、実現に向けた最大限の努力をしていく責任が発生するのは当然で、たびたび発生している高層マンション問題などが景観にも影響を及ぼすこととなれば行政として積極的に介入し、明確な意志を示すことが求められる場面も出てくるだろう。
 今、眼前に広がる景観はまちのゆるやかな新陳代謝を経て、長い年月の中で形成されたもの。これからできる計画はすぐに効果が現れるものではなく、少なくとも10年先、更に遠くを見据えるならば100年先に影響を与えるものになっていく。全国に先駆けて景観条例を制定した石川県の金沢市では一般家屋への助成金制度なども設け、市民と行政が一丸となって、加賀百万石の情緒溢れる歴史的な街並を守っている。
 今後、津市でも市民と行政が力を合わせて未来のために、なにをつくり、そしてなにを残していくのかをイメージしながら、計画づくりを進めていくことが重要となるだろう。