◆大河ドラマのヒーロー
 来年のNHK大河ドラマの主人公は、豊臣秀吉や徳川家康に天下を取らせた智謀の名将黒田官兵衛(1546─1604)。会津若松を舞台にした「八重の桜」がようやく佳境に入った所。
 いささか早い気もするが筑前黒田家52万3千石ゆかりの福岡、官兵衛の出身地、姫路、それに黒田家発祥地の滋賀県が観行ブームにあやかり、大河ドラマ旋風である。
 大河ドラマのヒロインは幕末の篤姫、徳川秀忠の妻、お江与が脚光を浴びたので、今度は戦国武将、やはり藤堂高虎、明智光秀、石田三成と地元の人気は満点だが、津城の無いのが玉に瑕…。やはり官兵衛さんだ。
 ◆近江源氏の流れ、正義派
 官兵衛は天文15年、姫路生まれ、父は播州の豪族、小寺政職の筆頭家老、黒田職隆だ。幼名は万吉、長じて孝高、キリスト教の洗礼を受け、ドン=シメオンと名乗るが、秀吉に怒られ、隠居して如水と号した。
 ルーツは、近江源氏の佐々木一族。戦乱で播州に移り、目薬を商売にして利財を稼ぎ、小寺一族に接近、ついで織田信長に仕えた。戦略、智謀で秀吉に注目された。
 秀吉が近臣を集めて冗談めかしに「わしが死んだあと誰が天下を保つか」と云ったので、みな家康、前田利家、毛利輝元、宇喜多秀家と笑ったが、秀吉は「たったひとり天下を得る人物がいる、それは官兵衛だ」ときっぱり断言した、という。
 当時は、まだ12万石の城主で、官兵衛は秀吉の才気を痛感、隠居した。しかし関ヶ原合戦の際、伜の長政を家康の元に送り、自分は九州の諸城を攻めとった、凄い人物だ。
 ◆愛すべき智恵者
 智謀の将。しかし陰謀の謀略家では無い。キリシタン信仰をもつ正義派だ。
 若い頃、盟友の荒木村重が信長に反逆したので単身、説得に赴き、牢獄に閉じ込められ、足腰を痛めた。
 しかし、村重を助け、秀吉を感服させた。が、信長に激怒を買い、長政が首を落とされるところを秀吉に救われた。などエピソードも多い。
 そういうところに外様大名なのに、福岡城を築き、九州に大大名の地位を保った点は余人に真似の出来ない、智恵者でもある。
 また、福岡という地名も官兵衛が大名としてスタートを切った備前国邑久郡福岡村から大切にして来た〝第三の故郷〟。戦国武将にしては誰からも好かれ、愛される人物であったとも云われている。
(横山 高治 津市出身。津工業・明治大学卒・歴史作家。「藤堂高虎」「伊勢平氏の系譜」「戦国於奈津の方」「平家伝説と隠れ里」など著書多数)