風薫ると表現したくなるような日に、野ばらを見た。道端の空き地で、野ばらは白い花を盛り上がるほどに咲かせていた。 
 この花を見ると思いだす童話がある。国境を守る小さな国の若い兵士と大きな国の年老いた兵士の話。国境を示す石碑の傍には野ばらが咲き、みつばちが群れていた。見張りをする二人の兵士の間にはいつしか友情が芽生え…。
 やがて二つの国は戦争を始め、若い兵士は老兵士と別れて遠い戦場に赴く。小さな国は敗れる。野ばらは再び花を咲かせみつばちが群れているのに、若い兵士は死んでしまったらしく…。やがて野ばらは枯れ、老兵士は故郷へ戻って行く。
 確か、国語の教科書で読んだと思う。自分の教科書だったか、子どもの教科書だったか、それとも家庭教師のアルバイトをしている頃の生徒の教科書だったか。
 明るい日差しの中で、白い花を咲かせる野ばらと二人の兵士の交流。淡々と書かれた穏やかな話の中に、反戦が静かに力強く語られている。教科書で出会った多くの教材の中でも、特にこの童話を覚えているのは、この静かな反戦が強い印象を残したからだ。
 野ばらの清楚な花びらと甘い香りに、どこかで今も行なわれている戦争を思い起こす。野ばらを枯らせてはならない。人々ののどかな日常を壊す事があってはならないとそのたびに思う。(舞)