「『クミコ、君を乗せるのだから』というCMがあったね」何をきっかけか、そういう古い話になった。日産スカイラインだったかチェリーだったかの新聞広告で、そのコピーを見た記憶がある。
 何十年も前のことを覚えているのは、秋吉久美子のかわいらしさが印象的だったから。そして、ちょっとした反発を感じたから。
 少々上の世代の女子は運転免許を持たず、助手席に乗ることを当然としていた。でも私の世代の女子は、みんな十八歳で自動車学校に通ったものだ。車に乗せてもらうのは、うれしかったけれど、今の子たちと違って、男女ともに恋愛下手。誘われることに慣れていなかったし、スマートに誘える男子もいなかった。
 生まれた時から男女同権と教えられ、それが幻想だとはまだ知らない年頃。待っているより、行動しよう。クミコみたいにかわいくない私は、男子の誘いをさっさとあきらめ、「自分で運転してどこでも行こう」と思ったのである。
 女の子が車を持てる時代ではなかったので、親の車に乗った。女が運転していると、信号待ちで隣の車の男が覗き込む。相手にしなかったけれど、それはそれで心楽しい瞬間だった。
 運転は男、助手席は女と決まっていない今は、男女平等が伸展した結果なのか。それとも、女の仕事がただ増えただけなのか。     (舞)