松枯れが深刻な御殿場海岸の松林

 『御殿場海岸』にある松林は「マツ材線虫病」に悩まされてきたが平成22年より津商工会議所が三重県・津市と、植樹などの保全活動に取り組む三者協定を結んでいる。しかし、現在は国が高潮対策のため、松林に隣接する堤防を改良する計画を進めていることもあり、植樹などは休止状態。計画の内容上、松の一部を伐倒する必要も出てくるが、津市を代表する景色の一つであるだけに防災と景観の両立が求められている。

 御殿場海岸の松林は元々県が海岸防災事業として、昭和53年から3年間かけて1万2000本を植えたもの。それらが成長し、津市を代表する風景である『白砂青松』を形成する重要な要素になっていた。しかし松に卵を産み付けるマツノマダラカミキリが媒介する『マツ材線虫病』による立ち枯れが深刻化している。
 そこで『市民の財産』である松林を守ろうと、津商工会議所が立ち上がり、県の「企業の森」事業を活用し、県と津市による三者協定を締結。以降、津商工会議所は、病気に耐性のあるスーパークロマツを植えたり、樹に薬剤を注入したり枯れた松の伐倒など、様々な保全活動に努めてきた。
 この協定の有効期間は5年間。津商工会議所は松林を5つのエリアに分け、順次保全活動を行う計画だったが、昨年4月に国土交通省中部地方整備局の「津松阪港直轄海岸保全設備事業」が予想よりも早く正式に事業採択された。
 この事業の内容は海岸線の老朽化した堤防を台風などによる高潮対策のために改良しようというもの。松林に隣接する阿漕浦・御殿場工区は全部で3・5㎞。現在、詳細設計の段階だが堤防の上を走る道幅は最も狭い所が約4mの現状から5mにまで拡幅。高さも6mにまでかさ上げされる予定。堤防には住宅地が隣接しており、工事は松林側からしか行うことが出来ないため、場所によっては拡幅と共に工事用の重機が通るスペースを確保する都合上、松の木を伐倒しなければならない。そこで津商工会議所では工事の詳細が決まるまで植樹を控え、草刈りなど必要最低限の保全活動に移行している。
 同局ではワークショップなどを開き、県・市・商工会議所関係者とともに、地域住民代表の意見を取り入れ、松林の伐倒を最小限に済むよう努力する姿勢は見せているが、結果的に保全活動が減速し、松が約1500本にまで減っている現状に危機感を募らせる地域住民も少なくない。
 ある地域住民も命を守ってくれる堤防が改良されることを喜ぶ一方で「すっかり数は減ってしまったが、地域のシンボルだから、なんとか残して欲しい」と、慣れ親しんだ松林に対する深い愛着の思いを語る。
 工事は平成35年の完了を目標に来年頃から始まると見られているが、防災面だけでなく、景観も重視した形で工事が進められることが求められよう。