働けど、働けど…ではないけれど、じっと手を見る。ちりめんのような皮膚の下を青黒い静脈がのたくっている。五ミリほどのシミが二つある。指は割合と長い。そしてペンだこがある。
 今どきペンだこを作っているのは、漫画家ぐらいではあるまいか。ワープロの普及で、ほとんどの人の手からペンだこが消えたのに、私の右手中指の第一関節の皮膚は硬く盛り上がっている。
 ペンだこができるのは、筆圧が強すぎるからだろうか。ほとんど字を書かない生活なのに、身に付いた癖のせいでたこが消えない。
 じっと足を見る。割合大きい。足の静脈は手のそれよりも細く見える。青黒くのたくっているのは同じだ。たこもある。座りだこである。
 右足のたこの方が大きいのは、正座のときに右を下にするからだ。幼い頃、板の間で正座をしてご飯を食べていた。だから未だにフローリングで正座をしてしまう。これも癖。たこは消えない。
 家事や仕事で動いている時には、自分を見る余裕はない。きょうは何にもすることがなくて、何にもしたいこともなくて、時間ばかりがある。自分に対する不安も家族や友人に対する心配も見当たらない。
 だから、何も考えないでじっと手を見る。まるで老人か病人のようだが、忙しくしてばかりでは人生がもったいない。無為な時間も良いものだ。      (舞)