今年7月に景観行政団体となった津市では、来年度の運用開始をめざし独自の景観計画の策定に向けた協議を進めている。これは基本的に新築建築物に地域の景観との調和を求める内容だが、より重点的な施策に取り組む景観形成地区の候補地で現在、地域の景観を形作る上で重要な歴史的建造物が失われようとしている問題が発生しており、計画にどれだけ実効力を持たせられるかが重要な課題として浮上している。 

 国内では高度経済成長期辺りから無秩序な建築物が増え続け、各地域が持っていた自然や歴史などの特色ある風景が失われてきた。そこで国は平成16年に「景観法」を施行。全国の都道府県と政令指定都市を景観行政団体に指定している。津市も独自の景観計画を策定・運用をすべく、県と協議した上で、今年7月に景観行政団体となった。
 津市の景観的特色は海山川といった豊かな自然と、街道筋の宿場町として栄えた当時の面影を残す町並みなどが挙げられる。計画自体は市域全体が対象になるが、歴史的な建造物や特徴的な町並みが残る津城址周辺・一身田寺内町・芸濃町楠原などや、市街地であるフェニックス通りから津なぎさまち周辺・津駅西口と東口の周辺の計10地区を景観形成地区の候補に指定。行政や有識者と各地域の住民が計画策定に向けた話し合いを重ねている。
 来年7月の運用開始をめざす景観計画は、まずファーストステップとして県の景観計画同様、新築の大規模建築物に対して、周囲の景観とマッチした色や意匠にするよう施主に配慮を求めていくことになる。
 一方、個人の住宅や小規模店舗に対しては地域住民の最大限の合意形成が必要となるため、より慎重に協議を重ねながらルールづくりを進めた上で運用に移していくという流れだ。
 これらの施策は、新築物件に加え、既存物件の増改築も対象としているが、景観形成地区候補の一つでは、その地域の景観を形作る「基準」の一つとなる建造物が消えそうになるという問題が発生している。その地域のシンボル的な建造物のちょうど真正面に見える問題の建築物は通り沿いで、ほぼ唯一、江戸時代の景観を伝える貴重な建物として、文化財にこそ指定されてはいないが周囲の景観形成に重要な役割を果たしている。しかし相当前から空家となっており、建物は老朽化。現在の持ち主は遠方に在住している。以前に地域の声もあり解体補修工事を行う計画が浮上したが、市の試算では予想以上に費用がかかるとの結果が出たため、あえなく頓挫。今や屋根の一部が崩れて、防災面からも危険な状態になっているが、取り壊せば通り全体の景観が大きく損なわれてしまうことになる。
 景観計画はまだ策定段階であり、この建物は文化財でなく個人の資産である以上、現状では行政として動きづらいのも確かだが、景観上果たす役割を考えれば持ち主や地域だけに改修費の捻出を求めるのは適切なのか疑問が残る。これからも、こういうケースの発生は十分予想されるため、何らかの形で行政が動ける仕組みづくりは必要だ。
 景観計画自体が、どこまでの〝実効力〟を持つものになるのかは、景観を守るために必要な補助制度の創設といった制度面の充実に加え、市として明確な価値判断をした上で、柔軟に個別の施策へ移せるかも重要な要素となろう。