「大名塚古墳」の石室への入口

「阿由多神社」の参道

 小野平の滝を後にした私とM君は往路の砂利道ではなく、舗装された方の道を滝とは逆方向に進む。すると、県道28号沿いの私たちが目印にした滝の案内看板から南に200mほどの付近に出た。「こちらに看板を置いてくれれば良かったのに」と思ったものの、結果として旅に彩りを添えてくれたので良しとしよう。
 さて、ここからはいよいよ安濃町。同町野口から草生に向かって県道28号を南進する。滝までの道のりとは打って変わり、峠を越えると下り坂続き。普段はこの道と並行するグリーンロードを車で走ることは多いが、日々の仕事の中でせわしなく動き回っている最中ということがほとんど。間近にそびえる経ヶ峰を見上げながら、のんびり自転車をこぐというのは凄く贅沢な時間の過ごし方と思う。ほんの少し視点を変えるだけで、ありふれた日常は未知へと一変する。この連載が、そんな楽しみ方のきっかけになることを願う。
 草生の集落に入ってほどなく「市指定史跡 大名塚古墳」と書かれた案内看板の前で駐輪。しかし、その看板が誘導する先はどう見てもあぜ道。小野平の滝の件もあり、少し怪訝な顔をするM君を尻目に自転車を降り、農閑期で少し寂しい雰囲気となった棚田の中を行く。100mほど進むと、木々が生い茂る小山の一部にぽっかりと開いた古墳の石室の入り口が見える。こうなったら現金なものである。M君は先刻とは対照的に瞳を輝かせながら、我先にと内部へ入っていく。
 石室内部は天井が高く、外から想像した感じよりも広い。一目で、埋葬されていた人物の栄華や権力を感じられる。壁や天井を構成する石組みは大小不揃いで一見すると拙くも見えるが築造されたのが推定6世紀後半で、数多の大地震を乗り越えてきた実績を踏まえると凄い技術である。
 その後、自転車で再び坂道を下り、グリーンロードとの交差点を安濃中央公民館方面へ直進。旧安濃町役場付近の交差点を消防署方面に曲がり、安濃橋から県道42号を北に横切る。目的地は安濃城跡がある「阿由多神社」=同町安濃=。
 集落の奥の小山の上に鎮座するこの神社。鳥居をくぐると、竹林に彩られた長いコンクリートの階段が続いている。さすがは城跡といったところ。少し進んだくらいでは本殿は全く見える気配がない。高まる期待を胸に参道を進んだ。(本紙報道部長・麻生純矢)