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辰水神社を出発した私とM君は美里町家所の集落から長谷山ハイツや、片田長谷町の集落を左手に見ながら長谷山の登山コース入口まで自転車を進める。
長谷山の標高は321mと決して高くはないが、津市民に最も親しまれている山の一つ。子供たちの遠足や、健康づくりなど、日頃から登る人も多い。
少し余談になるが、本紙会長西田久光は若かりし日に、この山であったUFO目撃騒ぎの取材をしたそうな。会長の話によると、近くの駐在さんがUFOらしきものを見たという情報から騒動が広がり、マスコミ各社がこぞって、長谷山に駆け付けたらしい。
閑話休題。長谷山の登山コース入口に着くと、通行止めの看板が立っていたが、別のコースを知っていたので、すぐにそちらから登ることに決めた。
そこに行くには片田長谷町の集落を抜けるのが最短ルート。この時、私は内心ワクワクしていた。なぜなら、ここは昔ながらの集落で、道幅も狭く普段の仕事では通ることがまずないからだ。事件などのニュースを追うよりも、人々のなにげない日常を目の当たりにする瞬間の方が喜びを感じてしまうのは地方記者の性だろう。集落から登山コースの入口へ行くには長谷寺の方へ続く坂道を登る形になる。私は途中で自転車を停め、少し黄みがかり始めた日光に照らされた家々や軒先におかれた古びた足踏み脱穀機など、集落の風景を写真に収めていく。
寺の下にある広場に自転車を停め、徒歩で山頂をめざす。境内を抜けた先にあるコースは、森のど真ん中を走り、大量の落ち葉に覆われた予想以上に険しいものだった。時に苔むした岩の上を進むのだが、2人とも普通の運動靴だったので、かなり滑る。前日に雨でも降ろうものなら、更に大変なことになっていたのは想像に難くない。今までを振り返ると、自転車に乗っている時間と同じくらい歩いているので、どんな悪路でも踏破できるようそれなりの靴を用意しておくべきなのだろう。
その後、しばしの悪戦苦闘を経て、未舗装の道に合流。どうやらこの道が、工事中の看板の先にあるコースのようである。少し進むと、大きな電波塔が右手に見え、ほどなく目的地である山頂へと到着。中心市街地のビル群など、澄んだ冬の空気越しに見る景色は鮮明で美しい。
眼前に広がる眺望は、津の全面積からすると、ほんの一部だが、M君にこれからどういうところを回るのかをイメージして欲しかったので、ここに来た。
私が色々な建物を指さしながら軽く説明をしていると、「あれは何?」とM君が声をあげる。彼が指さす方向をよく見ると、確かに遥か向こうで宙に浮かんでいるような白い物体が見える。釣られてカメラを構えるが、良く目を凝らして見るとなんのことはない。伊勢湾に浮かぶ船だった。
騒動の後、しばらく長谷山はUFO目撃スポットとして有名だったらしいが、こういった先入観から生まれた噂が更なる噂を呼ぶという構図だったのかもしれない。でも、その中に本物が紛れていた可能性も否定できない。美しい眺望をそっちのけで、そんなことにロマンを感じている自分に気付き苦笑い。こういうところは、いくつになっても変わらないなとため息をつきながら帰路についた。(本紙報道部長・麻生純矢)
2014年2月20日 AM 4:55