息子が大学入学で家を離れたのはずっと前のことだが、小学生から使った学習机はまだそのままにしてある。いくらなんでも、もう片付けてもよいだろうと思って、引き出しを開けてみた。
 私に似て整理下手な息子である。高校時代の写真やら、運動会のメダルやら、筆記用具やらがごちゃごちゃと入っている。大事なものは持って行ったはずだから、ここにあるのは基本的に必要ないもの。思い出の多寡がものの価値となる。
 片付けるには、まず分別しなくてはならない。捨てるもの、保存するもの。でも、これが難しい。写真はとりあえず保存するが、その他のものにまつわる物語を知らない。息子に無断で捨てても良いかどうか、どれもこれも判断保留となってしまう。
 ウサギの貯金箱を見つけた。中を見ると一円玉に五円玉が混じっている。全部で数百円だから、これは私が使わせてもらうことにした。一円玉もこんなところに滞っていないで流通したいだろう。息子の小遣いを着服するみたいで気が引けるが。
 そもそも机をどうするか。壊れていないけれど、使う当てもない。来週のゴミの日に集積所に運べば片付くけれど……。
 でも、それが難しい。息子の机については、私にも思い出がある。来週捨てなくとも、その先でもかまわないだろう。結局、家から姿を消すのはウサギの貯金箱の中身だけ。(舞)