先日、登山家・野口健さんの講演会を取材したが、大変印象に残っている。
 エネルギーや環境についての内容だったのだがエベレストや富士山での清掃活動や、子供たちを対象にした環境教育に取り組む立場上、原発問題への質問を投げかけられる機会が多いという。しかし、賛成か反対の二元論でしか意見を求められず、どちらかを即答しないと痛烈な批判を浴びてしまう。それに対し、一人の人間の中でさえも多種多様な考え方が混在しているのに、二元論で答えが出る訳がないとした上で「安易な色分けが社会に自ら限界をつくっている」と反論していた。
 未だに終息の見えない福島第一原発の事故の問題などから、原発再稼働への懸念が大きいのはわかる。だが、火力発電への依存によって貿易赤字が拡大しているのも事実で、国民生活に大きな影響が出る可能性も高い。 早期の脱原発も不可能ではないだろうが、相応の痛みに耐える覚悟は必要だ。原発は嫌だが電気代が上がるのは困るし、便利で豊かな暮らしは何も変えたくない。そんな甘い考えは通用しない。
 間もなく8%となる消費税についてもそうだ。増税は嫌だが手厚い社会保障は維持してほしい。これも無責任だ。
 野口さんは「エネルギー問題は落としどころ」とも語り、最も小さな負担で最も大きな効果を得る解決策を模索することの重要性を訴えていた。
 この考え方は全ての事柄に当てはまる。我々は目の前の現実から逃げずに、正しい〝落としどころ〟を見極める責任を背負っている。講演を聴きながら、改めてそれを実感した。 (麻生純矢)