初個展会場にて…松村雅司さん

  元井村屋マン、津市大門の松村雅司さん(73)が先月、三重画廊で初の個展を開き好評を集めた。
 会場壁面に明治、大正の帯や着物などの古布を斜めに走らせ、その上に水彩のスケッチ画を二重、三重に架けた同画廊始まって以来のユニークな展示。奇抜な飾りつけとは裏腹に雪の津城跡や四天王寺、津港、御影堂、北神山など地元の風景や、白川、立山、あるいはマチュピチュ、シャモニーと言った国内外の名所風景、更に花、歌舞伎役者などを描いた作品は「どこか癒される」と観る人の心に優しく訴える。
 村松さん、実は絵筆を取ってまだ5年少々。津で生まれ津で育ち関西大学卒業後は地元の井村屋製菓に勤め、商品企画などで活躍。井村屋マンとしての晩年はグループ企業の社長や会長の重責を担い、65歳で定年退職。第二の人生は悠々自適かと思いきや「自分が培ってきた経営のノウハウを途上国で活かせないか」と自分で探して大阪に本社がある印刷会社の中国杭州合弁会社へ。約3年間、現地で経営指導。68歳で帰国して、ここからが第三の人生。
  たまたま入った近所の喫茶サンモリッツで出会ったのが店内に飾られていた水彩画家・林徳一さんのスケッチ画。凄く惹かれ、「いいなぁ…」と漏らすとママが「紹介したろか」と。これがきっかけで林さんの講座に通うことに。
  ところが、それまで趣味と言えばゴルフくらいのもの。来し方のどこを取っても絵画とは全くの無関係。講座で初めて行った松阪公園でのスケッチでのこと。「真っ白い紙に鉛筆をどう動かしたらいいのか全く判らない」。林さんから「感じたまま好きに描いたら」と言われ、どうにか画面に向かった。「絵はそこから始めた」と苦笑する。
 今では林さんが指導する白雅会の月2回の野外スケッチのほか自分でも近隣や旅行先でスケッチブックを広げ絵筆を走らせる。往々にして師匠の真似に陥りがちの絵の世界だが、余白の余韻が特色の林さんの絵と違い画面に細密にびっしりと描き込む松村さん。キャリアは浅いものの個性が出ている。
 パッチワークの指導者で素材用に和の古布を収集している澄子夫人のコレクションを拝借し額縁のマットに利用したり、今回の「雰囲気づくりにこだわった」という会場装飾も松村さん自身のアイデア。いかにも自由にスケッチ画を、そして初個展を楽しんでいる様子。第三の人生に素敵な趣味を見つけた喜びが伝わってくる好個展だった。