「家城神社」の参道

 5月27日11時頃、薄い雲越しに降り注ぐ柔らかな日差しを浴びながら、走り始める。暦の上では、もうすぐ梅雨入り。自転車のベストシーズンは早くも終わりを告げようとしている。
 雨や猛暑は言うまでもなく、自転車の大敵。次回の取材まで間が空いてしまう可能性も想定し、少しでも距離を稼いでおきたい。
 焦る気持ちを抑え、この日は津市白山総合支所=津市白山町川口=の辺りから出発。名松線の線路を横切り、県道15号を美杉町に向って西進していく。
 最初の目的地は、「こぶ湯」。昔、津市白山消防署近くにある案内看板を見て温泉施設でもあるのかと、一度車で看板の示す方向に行ってみたが、それらしきものを発見できなかった記憶が残っている。
 この話を聞き終わるやいなや、M君は近くのガソリンスタンドで情報収集を始めた。その結果、こぶ湯は温泉ではなく、すぐ近くの家城神社にある湧き水らしいことが分かった。
 そうとなれば、すぐに神社へと向かう。入口の案内看板によると、こぶ湯の正体は16・3度の冷泉で、その名はこぶの治療に効果があるからとする説と人名に由来する説に意見が分かれているという。日本書紀にも、この泉が登場するエピソードが掲載されていることからも、かなり昔より名が知られていたようだ。
 4つの鳥居と、いくつもの石灯籠が並ぶ参道は短いながらも厳かな雰囲気を漂わせている。そして、参拝自体も社殿の中まで上がるという少し珍しい形。神前では道中の無事を願う。
 いよいよ、こぶ湯との対面を待つばかりだが、社殿の近くにはそれらしきものは見当たらない。「さっきの話では、境内から降りられる川のほとりにあるらしいぜ」というM君の言葉を頼りに、周囲を探してみるとようやく川の方に下りられそうな道を発見した。
 木立に覆われたその道を辿り、川のせせらぎが聞こえる方へ下っていくと、小さなほこらが見える。これこそが、探し求めていた霊泉・こぶ湯である。

古くより親しまれてきた霊泉「こぶ湯

 ほこらの中には、岩をくり抜いた湯舟のようなものがあり、その上を通る細いホースの先から少しずつ水が流れ出ている。古びた立て看板には、特に皮膚病に効果があることや、飲めば母乳の出が良くなる旨が書かれている。そのほか、泉質や効能を事細かに示した看板もあるが、飲用は自己責任と目立つ注意書きがされている。しかし、止められるほど、気になるのが人情。早速、水を指先につけ口に運ぶと、温泉特有のにおいが広がる。決して飲み易くはないと感じたが、この味こそが霊泉が持つ力の源でもあるのだ。後日調べたところによると、この泉の水を求めて、地元のみならず、遠方からも訪れる人が後を絶たないという。
 古より、常に人々の傍らにある霊泉の神秘にふれると、言い知れぬ心地よさを感じた。(本紙報道部長・麻生純矢)