倒壊寸前の危険な建築物は近隣住民の命をおびやかすこともあり、全国で「空き家条例」の制定が進められてきたが、今国会に空き家対策の特別措置法案が提出される動きとなったため、津市はその成立に合わせる形で調整を進めている。明確な全国一律ルール化によって持ち主に適正な管理を求められるようになるだけでなく、美杉町の「空き家情報バンク制度」のノウハウも生かすなど津市ならではの施策も期待される。

 少子高齢化に伴い、全国的に空き家は増加。5年毎に総務省が行っている「土地統計調査」の08年度版(最新の13年度版は制作中)によると、全国の総住宅数5769万戸に対し、空き家は756万戸と13・1%を占めている。
 その中でも、適切な管理が行われていない空き家は防災・防犯・景観などあらゆる観点から、まちに悪影響を及ぼしてしまう。特に倒壊寸前の建物は、近隣住民の命を脅かす存在となるため、持ち主に撤去や適切な維持管理を求める「空き家条例」の制定を全国の自治体が進めてきた。
 県内でも名張市・伊賀市・熊野市が条例を制定しており、津市でもこの6月議会への議案提出を目指してきたが、4月に自民党の空き家対策推進議員連盟が議員立法による空き家対策特別措置法案を今国会へ提出する意向を示したため、その成立を見込み、条例ではなく、法に合わせた対応を行う方向性に移行した。
 空き家対策で最も大きな壁となっているのが、空き家の持ち主がわからないケース。実際には、市町村は固定資産税を賦課する職務上、空き家の持ち主を把握しているが、個人情報保護の観点から、そのデータを基に直接呼びかけることができなかった。法案ではこれを可能にし、調査のために所有者の同意を得なくても、敷地に入ることも認めている。その上で、危険で倒壊の恐れのある建物については「特定空き家」に指定でき、家主に修繕や撤去を市町村が求められる権限を与えている。個人の権利保護が障害となり、公の権利が失われている実情を考慮した内容だ。
 また、所有者側が撤去をためらう理由である多額の撤去費と、撤去によって固定資産税の軽減措置が受けられなくなるという点にも配慮。国は対策として税制上の措置や、市町村への補助、交付税の拡充も掲げている。
 一方、自治体側の義務として、空き家の情報をデータベース化することを求めている。その上で、危険な空き家の撤去や修繕だけでなく、まだ人の住める空き家に関しては、積極的な利活用を促していく。
 法案が新法として成立した場合には来年度の予算に反映される見込み。これに先んじて津市でも、初となる空き家の実態調査を計画中。津市は、美杉町で三重県宅建協会と連携して行っている「空き家情報バンク制度」を行っているという実績もあり、そのノウハウを全域にまで広げて対応することも検討されている。
 空き家の増加は人口の減少。つまり、地域力の低下に直結する。リフォームよりも更に大規模な改修を加え、既存物件を生まれ変わらせる「リノベーション」も注目されているなど、施策の展開次第では、定住人口の増加にも繋げられる可能性を秘めている。今後も空き家の増加は確実で、津市には市民の安全・安心を守るという観点はもちろん市政の〝未来〟を踏まえた施策の展開を期待したい。