津市は今年の県政への要望の中に、知的障害者入所施設の新規整備と既存施設の定員拡充を求める条項を新たに盛り込んだ。この裏には、入所施設の待機者は4月1日現在で532件と年々増加しており、更に18歳以上になっても入所先が見つからないため止む無く障害児施設で過している人たちが平成30年3月31日までに退去させられるという大きな問題がある。

 国は障害者自立支援法の施行に伴い『施設から地域へ』をスローガンに「入所施設は障害者を地域から孤立させ、社会参加や自立に反する不適切な存在」とし、新設や定員拡大を認めないという方針を貫いている。
 しかし、重度の知的障害者は、精神的に非常に繊細で24時間体制で手厚い介護を受けないと日常生活すらままならないのが現実。そのため、県内に24ある知的障害者入所施設の入所待機数が4月1日現在で532件と年々増え続けている。
 国が入所施設の代わりとして整備を進めるグループホームとケアホーム(以下、GHとCH)は、利用者が日中は授産施設などで過ごし、ある程度自立した生活を地域で行うというもの。だが、報酬単価が少なく厚い人員配置が不可能で、重度への対応は難しい。
 更に18歳未満の障害児を対象とした入居施設の利用者には、対象年齢を超えても、次の入居先が見つからないため止む無く入所している加齢児が昨年12月時点で県内に27人いる。だが、彼らは、平成30年3月末迄に退去を求められている。
 そうなると、障害者たちは家族の元へ戻るしかないが、保護者の高齢化も進んでおり、非常に厳しい現状が浮き彫りになっている。
 そこで『三重県知的障害者保護者連合会』は昨年、県議会に対して、施設の拡張(新設)と質の向上を求める請願書を提出。県は加齢児を優先して入所させるようにはなったが施設の新設・拡充は検討していない。
 この状況を重く見た津市は、今年の県政に対する要望の中に、知的障害者(特に重度)と加齢児を受け入れるための施設整備及び既存施設の定員拡充を新規項目として盛り込んだ。
 津市障がい福祉課では「入所施設とGH・CHは性質の違うので、この要望は国や県に異を唱えるものではない」としながらも要望は保護者の悲痛な声を聞き入れた結果としている。
 『施設から地域へ』という考え方は、障害者が社会で活躍する機会を得るという意味で非常に重要だ。その一方、そこからこぼれ落ちた人へのケアが課題となる。今回、より現場や保護者に近い市が声を上げたことの意義は大きいだろう。