アイアンマン(鉄人)70.3はトライアスロンのうち水泳1・9㎞、自転車90・1㎞、マラソン21・1㎞の計113・1㎞(70.3マイル)で競うレース。鉄人としても、鉄を操る鍛造職人としても経験豊富な山田直則さん(60、松阪市中ノ庄町)は、6月1日に愛知県知多市・常滑市で行われた「アイアンマン70.3セントレア知多・常滑ジャパン」の60~64歳男子の部で3位に輝き、来月の世界大会への初出場を決めた。 

 

山田直則さん

山田直則さん

 山田直則さんは「㈱松阪鉄工所」=本社・津市高茶屋小森町=で最近まで約40年間、鍛造職人を務め、現在も同社に勤務している。スポーツには縁がなかったが、同社に就職し、高温に熱された鉄を早く・正確に打つ鍛造作業に励むうち、自然に強靭な筋肉や体力が養われたという。
 30代半ば頃から、肩の脱臼癖のリハビリとしてマラソンを開始。初心者ということもあって頻繁に自己ベストタイムを更新できるのが面白く感じた。当時、夏場の練習にトライアスロンを取り入れており、サブスリー(市民ランナーがフルマラソンで3時間を切るタイムで完走すること)を実現できたら、トライアスロンの大会にも挑戦しようと決意。 
 市民ランナーの中でも一握りの人しか叶えられないこの目標に向かい並々ならぬ努力をし、約10年後、当初より年齢を重ねたにも関わらず見事に達成した。以来、国内外のトライアスロン大会に約25回出場。
 昨年9月の「トライアスロン伊良湖大会」では自転車がパンクした弾みで転倒し、流血、手足の関節をひどく痛めたが、今年4月に行われた「全日本トライアスロン宮古島大会」の参加資格を得るためにも完走しなくてはいけないと、執念でゴールした。
 そして今年は、同宮古島大会の男子60~65歳の部で9位。5月の「ホノルルトライアスロン」の60歳~64歳の部と、「伊勢志摩・里海トライアスロン大会」の60代男子の部で優勝。2回目の出場だった6月のアイアイマン70.3の日本大会60~64歳男子の部で3位となり、来月7日、カナダの世界大会に初出場する。
 今年の日本大会には約1400名/組が参加。山田さんは、「年を取ったと落ち込むのではなく、60歳になったからこそ頑張ろう」と挑んだ。
 ある有力選手を追いかけていこうとしたが、水泳の序盤から大きく引き離されてしまった。しかし諦めず自転車でもその姿を追い、得意のランでついに追い越し、5時間18分48秒というタイムでゴールした。
 山田さんのこの強さの源は「自分は陸上経験もなく〝普通の人〟だが、努力したらできる。練習は時間を作ってやるしかない」という信念と、実行力。60歳の今も早朝3時に起きて15㎞走ったり、自転車で通勤、残業後にプールで水泳、休日に、所属する「伊勢鉄人クラブ」の仲間と海で泳ぐなど鍛錬を重ねている。
 また、ほかのランナーの走りや厳しい練習に励む姿を見て謙虚に学び、技術や精神力を身に付けた。
 この姿勢は仕事でも同じで、若い頃から、先輩・後輩職人の作業を粒さに観察して時間を惜しまず腕を磨き、培った高い技術で自社に貢献してきた。同社では、そんな山田さんの選手活動を、大会出場のための休暇取得を融通するなど厚くサポート。社員達も温かいエールを送っている。
 山田さんは「大会で海を泳ぎ陸を走ると、その土地を制覇した気分になれます。世界大会では自分がどこまで通用するか知りたい。今後も色々な人にお世話になるし、会社も社長もバックアップしてくれているので、何があってもゴールできるよう頑張ります」と周囲への感謝を胸に健闘を誓う。若い選手や職人に勇気を与えてくれる鉄人の、世界での活躍に期待だ。