ここで機銃について説明しておかなくてはならない。正式には「M─2 ブローニング機関銃」口径12・7ミリ。装甲弾、焼夷弾、曳光弾、通常弾を一組にして連射する。貫通力は距離200メートルで、装甲弾は2・5ミリの装甲鉄板を、通常弾は5センチのコンクリートを貫通する威力がある。P─51はこの機銃を左右の主翼にそれぞれ3挺合計6挺装備する。出撃時には、1880発を装備する。この機銃の集束点は300メートル。約1・7秒で掃射を終える。
 機銃は本来航空機、艦船、建築物などに対して、攻撃を加えるために使用する目的で開発されたものであるが、それを人に向けて発砲したらどの様になるか。想像しただけでも恐ろしい。人体を貫通して別の人を射抜くことも十分にあり得た。
 三重県名張市、近畿日本鉄道大阪線の「美旗」駅に名張行き普通電車が停車した時、中村方面から飛来した一機のP─51がこの電車に機銃掃射をあびせた。8名死亡、22名負傷と、ある記録に記述があるが、正確な負傷者数は判らない。
 「丸山」と同じ大惨事となり酸鼻を極めた。蔵持小学校にも機銃掃射をした。この小学校にはその時の機銃弾が当たった「被弾ピアノ」が大切に保存されている。名張街道では走行中のトラックが機銃掃射されている。
 日本軍の邀撃により撃墜あるいは、原因不明で墜落したこの日のP─51は下記のとおり。
 1.46戦闘機中隊、ジャック K.オート大尉、認識番号0─663936。日本軍発射の機関砲弾を被弾。和歌山県田辺市の田んぼに墜落炎上。大尉はパラシュートで降下して逃走したが、隣村で捕らえられた。大阪城前の中部憲兵司令部に送致され、8月15日午後、大阪市天王寺区玉造本町の真田山陸軍墓地にて処刑された。この日、大尉を含めて5名の飛行士が処刑された。
 2.72戦闘機中隊、ウイリアム・アーヴィン・メリット大尉 0─677097.和歌山県有田沖。船舶に機銃掃射中に海面に突入。後日遺体が漁民に引き上げられた。
 3.46戦闘機中隊。マーカス・E.マックディンダ中尉、0─758027.機関砲弾を被弾。大阪府岸和田市8マイル沖。パラシュートで海上に降下。友軍機により救命ボートに乗り移ったのを確認。
 4.531戦闘機中隊。ポール・E.シャー少尉、0─767402。合流地点で墜落。パラシュートで降下。潜水艦に救助される。
 各地での機銃掃射を終えた戦闘機隊は10時45分から10時50分にかけて、再集結空域に集結後B─29に先導されて、硫黄島に午後1時50分から2時33分の間に着陸して任務を終えた。