台風・地震・津波などの災害情報をいち早く知らせるため、津市全域に整備されている『デジタル同報系防災行政無線』だが、雨天時や屋内ではアナウンス内容が聞こえにくいという声が市民から上がっており、津市では、話し方の改善などに取り組んできた。しかし、明確な効果がでなかったため、新たな屋内に対する災害情報の発信方法の導入を決めた。現在は多様な手段の中から、どのうような形にするのかを検討をしている。

 

デジタル同報系防災行政無線のスピーカー

デジタル同報系防災行政無線のスピーカー

 津市の『デジタル同報系防災行政無線』は、平成20年度より3カ年計画で約16億円の費用をかけて整備された。市内全域の486カ所に屋外スピーカーが設置されており、災害発生時には様々な情報を正確かつ迅速に伝えるという重要な役割を果たしている。広大な市域にここまでくまなく整備されているのは県内でも津市のみ。
 しかし、この無線での緊急放送に関して、台風や大雨の時には、放送の音が雨音にもかき消され易かったり、オフィスなどの鉄筋コンクリートのビルや高気密住宅の中にも届きにくいという実情がある。市民へのアンケートでも「放送の内容が聞き取れない」「聞こえづらい」が3分の2を占めるという結果が出ており、市議会でもほぼ毎回、複数の市議から改善を促すよう要望されている。
 そこで津市では、災害情報を伝える職員の話し方に一因があるとして昨年、担当職員を対象としたプロのアナウンサーによる話し方で改善を試みた。そして、昨年の台風11号発生時に早速実戦投入したが、ほとんど効果が見られなかった。
 この状況を重く見た前葉泰幸市長は屋内に対する新たな情報発信手段の導入を決定。現在、危機管理部では来年度の導入に向け、全国の先進例も参考にしながら、どのような形が最適なのかを議論を重ねてている。
 有力候補のひとつが建物内に直接取り付ける戸別受信機だ。屋外スピーカーでの放送と同じ内容を部屋の中にも伝えられるため、代替手段としては申し分のない性能を持っている。欠点は場所によっては受信機に加えて、アンテナの取付が必要になるなど、設置費用が高額なこと。一軒当たり最高10万円ほどの費用が必要になるため、約12万世帯が暮らす津市に全戸配布するのは現実的でなく、補助金で対応する場合でも割合が低いと導入に二の足を踏む市民が多くなる可能性も高い。
 続く候補は県内では、四日市市が導入している災害ラジオ。FМラジオ局の電波を活用するため、導入費が1万円程度と戸別無線より圧倒的に軽いのが特徴。しかし、電波放送の性質上、無線のように災害が発生している地域にのみピンポイントで情報発信ができないのが欠点。
 そのほか、同部では東京都などで導入されている屋内でも電波の届きやすいポケットベルの回線を活用したシステムなども導入できるか業者に問い合わせるなど、最適な方法を探っている。
 津市では「無線はあくまで情報伝達手段の一つ」と話しており、登録制のメールやFAXによる情報発信も行っている。事実、昨年の台風11号発生時には、携帯電話会社と提携した携帯電話へのエリアメールがリアルタイムで正確な情報を得るのに大きく貢献したことは印象深い。
 一方、携帯電話を上手く扱えず、災害情報を無線に頼らざるを得ない高齢者も多い。限られた予算の中で検討が進められている屋内放送の導入も、災害時要援護者となるそういった人たちをまず優先することが望ましい。どういう内容になるのかが決まるのは、もう少し先だが、市民の命に係わる問題だけに、効果的な施策を期待したい。