津市・松阪市を流れる雲出川で、アユの遊漁券の販売などを行う『雲出川漁業協同組合』=福山忠夫代表理事組合長(77)、津市美杉町竹原=では稚アユの放流や川の清掃などで漁業振興と環境保全に貢献しているが近年、高齢化などにより組合員数が激減し、運営が厳しくなりつつある。この問題は漁業だけでなく環境にも及ぶ問題だけに、漁協や行政だけにとどまらないより広い視野での対策が不可欠だろう。

 

kumodu 雲出川のアユ漁が、今月14日から28日にかけてエリアごとに解禁となる。
 三重県知事からこの川のアユの第5種共同漁業権の免許を受けて、釣り人に遊漁券を販売しているのが、『雲出川漁業協同組合』。津市久居・一志・白山・美里・美杉地域に計10支部がある。
 内水面(河川や池などの淡水)で同漁業権の免許を受けた漁協には、漁業法により稚魚放流などの増殖義務が課せられている。
 同漁協でもアユの放流を行うほか、地元の猟友会に依頼しアユの天敵であるカワウを駆除したり、単独や、地元の企業や森林組合などとつくる「新雲出川物語推進委員会」で、川の清掃や草刈りを実施してきた。
 「一匹でも多くアユを川に入れて、組合員や皆に釣ってもらったり喜んでもらいたい。今年のアユ漁も、雨が多ければ水量が増えるので期待できるのではないか」と福山組合長。
 しかし同漁協では近年、全国の多くの内水面漁協と同様、高齢化が進み組合員数が大幅に減少している。数十年前の多いときは約3000人ほどだったが現在は3分の1以下の約980人で、ここ4・5年は毎年100人近くが退会しているという。
 同漁協の年間の運営費はアユの放流にかかる1200万円~1300万円を含めて2000万円弱。主に、組合員が支払う出資金(一人2万5千円)と、稚アユ放流のための賦課金(一人年間5千円)、川で工事を行う企業からの協力金で賄っている。
 このままのペースで組合員が減り続けると人材や資金面でも運営が厳しくなることが危惧されるが、減少の背景には、川や周辺の自然環境の悪化でアユが減り、趣味の多様化もあいまって釣り人が減っているという状況があり、回復は極めて難しい。
 このようななかで、将来に亘り雲出川の漁業と環境を守っていくためには、同漁協や行政、学識経験者など関係者の連携による、長期計画に基づく振興策が不可欠だろう。
 今のところ、雲出川でこのような動きはない。昨年施行された「内水面漁業の振興に関する法律」では、内水面漁業の振興に関する国や地方自治体の責務や、共同漁業権者の努力について定められている。また、共同漁業権者の申請により都道府県が河川管理者などで構成する協議会を設置する制度が設けられたが、全国内水面漁業協同組合連合会では現在までに、この法律による協議会設置は確認していないという。
 一方、県内の松阪市などを流れる櫛田川に関し昨年、地元のまちづくり協議会、行政と漁協、魚類の有識者などが参加する「櫛田川の環境を考える勉強会」が催された。これは、櫛田川のアユなどが遡上する魚道、湿地の環境の再生、川と地域の繋がりの再生などに関する「自然再生計画」の実施に向けて行われたもので、今後の発展に期待が寄せられる。
 雲出川の漁業振興は、同漁協の組合員の多くが職業ではなく趣味で漁をしていることもあり、海での漁業と比べ優先順位が低くなりがちだ。だが、県内外から釣り人が訪れるアユ漁の文化や、地元の子供達の自然体験の場ともなる川は、地域の財産とも言える。
 自然環境や時代が大きく変化するなかこの財産を守っていくためには、関係団体の連携や民間レベルの自発的な活動が必要だろう。