三日前から、歯に異常を感じている。ものを噛むと右下の奥歯が痛い。数年前に歯科医からインプラントに取り替えることを勧められた歯だ。何とかするべきだろうが、仕事が忙しくて休めない。
いや、本当は歯科医院へ行きたくないのが一番の理由だ。あの椅子に寝て大口を開けるのも、歯をガリガリギーンと削られるのも大嫌いだ。
とりあえず、しばらくこのままでやり過ごすことにした。硬いものは慎重に口に入れる。なるべく右側で噛まないようにする。味より何より、噛むことに意識が行く。気を付けることが多くて、食事に時間がかかってしまう。
こういう状況になると、この間までいかにのん気に暮らしていたのかと思う。とにかくこの歯の異常が治まってくれればどんなに楽だろう。
自分らしい生活を問題なく送れるだけで、人は十分幸せである。昨日と同じ日が続くなら、それは大きな幸せである。
食べるとか、寝るとか、歩くとか、跳ぶとか、当然のようにできたことに、不具合が起こる日が突然来る。歯に不具合が起こって、私ははじめて今までの幸せを知ることになった。
歯の痛みが消えたら、代わり映えしない日常に文句を言わず、他人をねたまず、日々感謝して過ごしたいと思っている。今までの生き方を反省しつつ。  (舞)