米国の利上げが昨年12月FOMCで実に9年半ぶりに発表されました。新興国や資源国の南ア・ブラジル・メキシコ・サウジアラビア・クウェートなども自国通貨防衛の為、否応なく利上げに踏み切っています。
また一方、昨年12月にECBが2回目の追加緩和を、同月日銀も補完的な措置としての金融緩和を、中国は11月まで6回の利下げを、インドは9月まで4回目の利下げをそれぞれ実施しています。
現在世界の金融政策の方向性としては、金融の引き締めと金融緩和という、まるっきり逆の動きがそれぞれ拡大しつつあります。今後、世界の景気が低迷を続けるなら、米国利上げのペースも緩やかとなり、世界的な金融緩和が継続されます。また米国の景気が大きく上昇し、世界景気の低迷をある程度補うようなら、米国は金利引き上げペースを速め、現在金融緩和している主要国も時期のずれはあっても金融引き締めに突入することになります。
現状の金融政策の違いが何処まで続くのか、どの時点で修正されるのかが今年の投資判断に重要な影響を及ぼします。
こうした環境で、グローバルな投資資金がどう動くのかを見極める必要があります。普通に考えると、米国の利上げは、投資マネーを米国に流入させ、ドル高が進み、ECBや日本は量的金融緩和を継続させるため、ユーロ安円安となります。米ドル上昇は新興国通貨や原油など商品の急落を招きます。既にこの1年間で新興国株式は2割近くの下落、新興国通貨もブラジルレアルの3割強の下落を筆頭に10%以上下落しています。更に昨年後半から低格付けハイイールド(高利回り)債も下落が始まっています。
基軸通貨ドルの引き締めペースが緩やかなら、その懸念は小さくなり、世界的な緩和で余った投資マネーはリスク資産に向かいやすい状況は続くと思われます。新興国経済も、自国通貨安により輸出が増加し、原油安は消費国の特に日本などのメリットは大きくなります。
いずれにしても投資対象は新興国より先進国に、債券より株式に投資方針を切り替える必要があります。
投資マネーにとって、重要なポイントは米国利上げの次に原油価格の下落です。
08年7月に145ドルまで上昇した原油先物WTIは現在1バレル30ドル台半ばまで下落しています。
原油下落の要因は、供給と需要の両方にあります。世界景気の減速により、ユーロ圏や新興国、特に中国で需要が大幅に鈍化しています。供給面では、これまで原油の純輸入国だった米国が世界一の産出国となり、更に昨年12月のOPEC会合で減産を見送った為、供給過剰が継続しています。
今後、原油市場では供給過剰の長期化懸念で、荒い値動きが続きWTIは30ドルまで下げる余地があるといわれています。更なる下落水準の20ドル台は伝統的な油田でも生産コストが採算割れする水準である為、そこまでの下落はないと判断されます。
相場では、過去最高値や最安値を更新したり、何年ぶり何十年ぶり以来の水準を付ける場合、既にどちらかに建玉が大きく偏った状況になっています。最近では、原油先物WTIや昨年の11月までのドル買いユーロ売りがそれです。
昨年12月からは、ドルが安くなり、ユーロが反発しています。原油はまだ下落を続けています。しかし相場では、大きなポジションに偏った後、巻き戻しの動きが急速に起きることが多々あります。今後戻り相場としてドル安や原油反発の可能性が出てきます。
過去の米国利上げの状況を比較検証してみます。
①94年1月から95年6月まで、米国政策金利3%から6%まで上昇
日本の短期金利は95年に2・5%から0・5%まで下げる。
対ドルでは1月の113円から6月の105円まで円高、その後、95年4月に80円まで円高。6月には84・5円。
日経平均は94年1月1万7421円から6月の高値2万1573円まで上昇、その後、95年6月の安値引け1万4376円。
ドル建て日経平均1月153から6月204円まで上昇、その後、95年6月171。
海外投資家は94年と95年共に4兆円ずつの買い越し。
ダウは94年1月3754で年間変わらず、その後95年6月4514高値引け。
②1999年5月から2000年12月まで
米国政策金利は4・75%から6%まで上昇
日本の金利は2000年8月に0・15%から0・25%に上昇。
対ドル5月120円から11月101円台まで円高、その後、2000年12月には114円。
日経平均は5月1万6762円から11月の高値1万9036円まで上昇。その後00年4月に高値2万0809円、12月に安値1万3182円。
ドル建て日経平均は5月139から00年4月190まで上昇、12月120まで下落。
海外投資家は99年に9兆円買い越し、00年2兆円売り越し。
ダウは99年5月1万0788から12月1万1658まで上昇、その後、00年1月に高値1万1908をつけ、3月と10月に安値9571、12月1万0787で引ける。
③2004年5月から2007年7月まで
米国政策金利1%から5・25%まで上昇。
日本の金利は06年7月0・15%から0・25%、07年2月に0・5%に上昇。
対ドル5月110円から12月101円台の円高、05年12月121円まで円安、06年5月109円まで円高、07年7月123円まで円安。
日経平均は5月1万1777円から07年2月と7月に高値1万8300円をつけ、7月1万7300円引け。
ドル建て日経平均は3月105から07年2月149まで上昇し、7月144。
海外投資家は04年8兆円、05年10兆円、06年と07年5・8兆円全て買い越し。
ダウは04年5月1万0314から10月に安値9708をつけ、12月1万0867まで上昇、その後、07年7月高値1万4021まで上昇、引け1万3211。 3つの期間の傾向として、米国の利上げ後、ドル円は半年前後、円高になっている、日本の金利上昇は結構遅れて実施、海外投資家の日本株買い越しが続いている、海外投資家の日本株のパフォーマンスを計る指標としてのドル建て日経平均でも、この半年間円高と日本株高の結果上昇している。
ただ過去には為替のヘッジという手段が少ないため、売買の過多により為替が大きく変動しているものの、現在では為替ヘッジが多く用いられている為、海外投資家の日本株における為替の変動は、ある程度緩やかとなると判断されます。
今後、ドル円の為替や原油価格の巻き戻し、米国利上げによる新興国の混乱、世界景気の成長度合い、日欧のサプライズ追加緩和の有無などを総合的に勘案すると、米国株式は低迷、日欧株式は上昇すると思われます。
ただし高値を大幅に更新するというより、大きく下げた後の上昇を狙うことがポイントとなります。
今年も国内シエア6から7割を占める海外投資家の日本株の買い越しや売り越しに注目する事がこれまで以上に重要になります。