津市大門の津観音こと『観音寺大宝院』が11月23日付で真言宗醍醐派の別格本山へと東海4県初の昇格を果たした。往時には、塔頭7ヶ寺41棟もの伽藍が境内に立ち並ぶ大寺院だったが戦災でその全てが焼失。今回の昇格は寺の500年以上にも及ぶ長い歴史と由緒だけでなく、所有する文化財、戦後の見事な復興と宗旨・宗派に対する貢献が評価されてのもの。

 

別格本山を示す石碑が新たに設置された観音寺大宝院の仁王門

別格本山を示す石碑が新たに設置された観音寺大宝院の仁王門

観音寺大宝院の別格本山への昇格は、真言宗醍醐派の総本山・醍醐寺自らの意向で決まった。通常は昇格を希望する寺側が申請を行い、各寺の代表者による宗議会などでの議論を経た上で本山が判断するという流れだが、今回は本山の意向を宗議会ではかるという逆のプロセスを取っている。別格本山への昇格は、東海4県で初。その経緯も含めると、異例の扱いといえる。
観音寺と大宝院は元々、別の寺院で、観音寺は和銅2年(709)に阿漕浦の漁夫の網に聖観音立像が引っ掛かり、これを本尊に今の津市柳山に開山したと言われている。その後、700年間ほどは、歴史を示す資料は残っておらず、永亭2年(1430)に将軍・足利義教が三重塔と恵音院を建立し、寺領を贈った記録が残っている。
一方の大宝院は元の名前を六大院といい、文安元年(1444)に伊勢国安芸郡窪田(現在の津市大里窪田町)に、公家の東坊城和長(後に正一位大納言)の幼少時の学問の師である長円法印が開山。歴代の住職は朝廷より僧正の官と上人号を授かるなど、密接な関係を構築。天文3年(1534)に、天皇の勅会で京都の東寺で開かれた空海の七百回忌法要にも、醍醐寺や仁和寺など名だたる京の名刹と共に地方寺院として唯一名を連ねていることからも、その寺格を窺い知ることができる。
その後、織田信長と伊勢国司・北畠氏の合戦で全焼したが、天正8年(1580)に、信長の弟・信包が観音寺の境内に大宝院を再興。大宝院は観音寺境内の塔頭7ヶ寺を含む12ヶ寺の本寺として、観音寺の棟梁寺院となった。豊臣秀吉や徳川歴代将軍など、時の権力者からも庇護を受け、寺領の寄進を受けている。
お蔭参りが盛んだった江戸時代には、大宝院の本尊・国府阿弥陀如来が伊勢神宮の天照大神の本地仏(同一的存在)とされたことから、多くの参拝者が訪れていた。長い間、〝日本三観音〟の一つとして広く親しまれてきたが、昭和20年(1945)の空襲によって国宝の阿弥陀堂と観音堂を含む境内の41棟が全て焼失。
昭和55年(1980)、第27世院家の岩鶴密雄さんが入山して以降、本格的な復興が図られ、仁王門、鐘楼堂、宝物庫、護摩堂、五重塔、資料館の建立・再建が実現した。また、平成3年には津観音保存会を設立し、戦災を逃れた貴重な宝物や文化財の整備に着手。現在までに、三重県有形文化財(絵画)5件8点、津市有形文化財(古文書)の指定を受けている。それに加え、数々の高僧を輩出しており、岩鶴さんも総本山・醍醐寺の顧問と宗議会副議長の要職に就いている。
これら背景から、別格本山昇格に必要な5条件=①500年以上の歴史②境内に七堂伽藍(金堂、塔、経蔵、鐘楼堂、講堂、僧坊)が揃っていること③名門たる由緒④③を裏付ける文化財⑤宗旨、宗派への貢献度=を満たすことがわかる。
岩鶴さんは「東海4県初の昇格は非常にありがたい。観音寺大宝院は昔、境内に役所や津商工会議所の前身の津商業会議所、小学校が置かれるなど、津市の政治・経済・文化・教育の発信地だった。これを機に、市民共有の財産として理解を深めて頂けたら」と語る。
津市中心市街地の顔でもある〝観音さん〟。今回の昇格は戦後からの復興が一段落し、新たな局面へと進んだ証ともいえる。宗教的な役割だけでなく、文化や観光などでも津市の中核を担う存在として、今後の更なる飛躍に期待したい。

1月16日(土)・17日(日)、「高虎ウォーク」が開かれる。主催する津市お城周辺まちづくり懇話会が、(公財)地域社会振興財団の交付を受け、長寿社会づくり事業として実施するもの。後援=(一財)地域活性化センター。
16日は、お七夜の最終日の寺内町を、17日は、津城跡を中心に藤堂家ゆかりの地を、当日配布する地図を見ながら自分のペースで歩く。両日とも立ち寄りポイントではガイドが案内してくれる。両日参加も、どちらか1日の参加もできる。
▼受付=両日とも9時~10時▼受付場所=16日・近鉄高田本山駅前(津市一身田平野359─2)。17日・近鉄津新町駅前(津市新町1丁目5─35)▼定員=先着順600名▼対象=だれでも参加できる
参加費=各日200円(保険代・資料代含む)
事前申し込み不要で当日受付場所へ。雨天決行(荒天中止)。受付場所へは公共交通機関の利用を。
◆16日・一身田コース(約5㎞)=高田本山駅出発~赤門跡~一身田寺内町の館~※専修寺(釘貫門)~※窪田常夜灯~桜門跡(環濠)~黒門跡~高田本山駅(ゴール)
※印では一身田寺内町ほっとガイド会が案内する。コース途中の高田会館内で温かいコーヒーまたは紅茶のサービスあり。参加者には寺内町の館にて〝おぼろ染め〟高虎ウォークオリジナルタオルをプレゼント。
◆17日・お城周辺コース(約8㎞)=津新町駅出発~※阿弥陀寺~※閻魔堂~山二造酢(試飲可)~※津八幡宮~※結城神社~※寒松院~※津観音~※高山神社~※津城跡(ゴール)
※印では安濃津ガイド会が案内する。コース途中であつあつの〝蜂蜜まん〟のサービスあり。また参加者に津ぎょうざも振る舞われる。
問い合わせは、同懇話会事務局(津市文化振興課、〒514─0056、津市北河路町19─1、メッセウイング・みえ内)☎059・229・3250、Eメールは229-3250@city.tsu.lg.jp

出口 2015年の世界は、パリでの卑劣な同時多発テロに象徴される暗い出来事も多かったが、同じくパリでCOP21(地球温暖化対策の国連会議)がパリ協定を採択するという画期的な出来事もあった。
パリ協定は、京都議定書以来18年ぶりの外交成果で、発展途上国を含むすべての国が協調して温室効果ガスの削減に取り組む初めての世界的な枠組みとなり、世界の温暖化対策は歴史的な転換点を迎えた。196もの国・地域をまとめ上げた議長、フランスのファビウス外相は後世の歴史に名を残すことになろう。
また、アメリカが9年半ぶりに金融政策を転換して利上げに踏み切ったことも歴史に残るだろう。
IMFの世界経済見通し(2015年10月)によると、昨年の世界の成長率は3・1%で、先進国が2・0%成長(アメリカ2・6%、ユーロ圏1・5%、日本0・6%)新興国が4・0%成長(中国6・8%、インド7・3%)と予測されている。では、今年の世界はどうなるか。IMFは世界全体では3・6%成長を見込んでおり、再び成長が加速すると予測している。内訳は先進国が2・2%成長(アメリカ2・8%、ユーロ圏1・6%、日本1・0%)、新興国が4・5%成長(中国6・3%、インド7・5%)となっている。
地域別にみていこう。まずアメリカであるが、今年は大統領選挙の年である。民主党はヒラリー・クリントン候補が優勢であるようだが、共和党はまだ本命が定まっていない感じがする。誰が大統領に選ばれるかによって今後4年間の世界の政治は大きく左右される。中国との関係や中東政策(ISをどうするのかなど)はもちろんであるが、日米関係もその埒外ではない。アメリカの成長率は2・8%と堅調に推移すると見られているが、連邦準備理事会(FRB)の金融政策からも目が離せない。
イエレン議長は景気の底堅さを背景に引き締め(正常化)に転じたが、日欧は追加緩和も辞さないスタンスを継続中だ。
つまり、アメリカと日欧は金融政策では逆の方向を向き始めたのだ。それがドル高や原油安をもたらし世界経済を揺さぶる可能性がある。
しかし、逆の見方をすれば、ドル高は新興国の通貨安を意味するのであるから新興国の輸出にとっては追い風となりうる。また、日欧の緩和継続はFRBの引き締めに伴う世界的な流動性減少への不安を相殺する一面がある。
いずれにせよ、アメリカの金融政策の転換によって、イエレン議長にはアメリカ、ひいては世界の経済をソフトランディングに導く高い手腕が期待されているのだ。
次は中国である。今年の成長率は6・3%と対前年0・5%鈍化する見通しだ。共産党一党独裁の国柄であるだけに、習近平政権の安定度を外部から推し量ることはなかなか難しい。南シナ海を舞台にした周辺各国との領土をめぐる軋轢も不安材料だ。
ただ中国の経済規模は、購買力平価に換算したGDPでみると既にアメリカに匹敵する規模にまで成長している。中国の景気の減速は、その意味で世界経済に与える影響がアメリカ同様極めて大きいことに注視する必要があろう。日中関係がどう進展するかも引き続き重要なポイントである。
ユーロ圏は1・6%成長と前年並みの成長に留まる見込みだ。ギリシャの債務問題は一息ついたようだが、パリでの同時多発テロを契機とした対IS問題、シリア等から押し寄せる難民問題、ロシアのクリミア併合以来冷え込んだロシアとの関係など、引き続き政治的には極めて難しい舵取りが要請されよう。ユーロ圏の実質的な指導者であるドイツのメルケル首相にとってはまさに正念場と言えるだろう。
最後は日本である。1・0%成長と緩やかな成長が見込まれている。しかし、ちょっと立ち止まって考えてほしい。ユーロ圏は、様々な難題を抱えながらも「短時間労働、長いバカンスで1・6%成長」を実現しているのだ。
わが国は「長時間労働、有給休暇の取得率50%足らずで1・0成長」なのだ。どちらが人間的な生活か、問うまでもないだろう。彼我の格差を考えれば、労働市場の抜本改革(労働生産性の向上)を始めとする構造改革に手をつけなければならない。キャッチアップモデルの下で人口が増加し高度成長した時代は終わったのだ。環境が変われば社会の仕組みも変えなければならない。今年が構造改革元年となることを祈るや切である。
(津市美杉町出身。ライフネット生命保険㈱代表取締役)

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