今冬、津市内で国立環境研究所の侵入生物データベースでも紹介されている外来種『コブハクチョウ』が目撃されている。三重県は分布域に入っていないが、隣の愛知県では生態系への悪影響や農作物被害への危惧から条例で放逐禁止になっている。安易な餌付けをしないよう心掛けたい。

 

水面を泳ぐ「コブハクチョウ」(錫杖湖で撮影)

水面を泳ぐ「コブハクチョウ」(錫杖湖で撮影)

コブハクチョウは、ヨーロッパ西部・中央アジア・モンゴル・シベリア南部が原産。全長約150㎝。赤みがかったオレンジ色のクチバシと、その付け根にある黒いコブを見れば、越冬のために大陸から日本に飛来するコハクチョウやオオハクチョウとの見分けは簡単につけられる。
日本には観賞用として持ち込まれ、1952年に皇居外苑の壕に放鳥されたのを皮切りに、全国各地の公園などの水辺で飼育されるようになった。やがてその中の一部が野生化し、全国各地で繁殖を続けている。まだ大きな悪影響は確認されていないが、営巣中は強い縄張りを意識を見せるため、在来鳥類の生息域をおびやかすなど生態系への悪影響や、レンコンなどの水生農作物や在来種植生の食害が危ぶまれている。
そのため、国立環境研究所は侵入生物データベースにリストアップし、HP上で公開。その分布図によると三重県は分布域に入っていないが、北海道から九州まで、約40の都道府県に及んでいる。隣の愛知県では「自然環境の保全及び緑化の推進に関する条例」で放逐を禁止している。愛知県内では、名古屋市・岡崎市・豊橋市などで確認されている。
今冬、津市でも芸濃町の安濃ダムの錫杖湖や、旧久居市内で、コブハクチョウの目撃情報が寄せられている。三重県によると5年ほど前に松阪市で観測されたがそれ以降、目撃の報告はないという。今回、津市内で見かけられている個体は愛知県など隣県から飛来した可能性が高い。どちらも単独とみられ、繁殖の可能性は低そうだが油断はできない。
公園や動物園でもお馴染みで優美な姿をしているコブハクチョウは、コハクチョウやオオハクチョウと混同され大陸から飛来し、羽を休めていると勘違いされ易く外来生物と気づかれにくい。同じ外来生物でも毒性を持ち、外見からも嫌悪感を抱かれやすいセアカゴケグモなどとは対照的な存在といえる。コブハクチョウが分布している他県の事例を見ても飼育場所から逃げた数羽が周囲の池や川などで繁殖を繰り返しながら野生化。徐々に分布域を広げたとみられる。そして、前述の通り見た目の美しさから餌付けをする人が後を絶たないことも繁殖の一因となった可能性が高い。
外来種の定着が恐ろしいのは、人間への害があるかどうかもさることながら、本来の生態系が壊されることだ。体も大きく繁殖力の強い外来種が在来種の生息域を脅かし、結果として自然の調和が大きく乱されてしまう。今回の津市に来ているコブハクチョウも、見るだけならば何の問題もないが、県内への流入を食い止めるという意味からも安易な餌付けだけは絶対に避けるべきだ。
少し視野を広げれば、コブハクチョウに限らず見慣れない生物を身近な場所で発見した場合、それがどういう生物なのか正しく見極めることが非常に重要となる。生態系を守るためには市民一人ひとりが、意識を高めて関心を持つことが求められている。

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