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福祉タクシーは、自由に移動できない交通弱者やお年寄り、障害を持つ人にとって、大切な交通機関である。買物や病院の入退院、外出支援、バリアフリー観光など様々な依頼をいただく。
その中に、消防本部の講習を受けて認定証を交付された患者等搬送の業務がある。乗務は2名以上(医療機関からの退院または福祉施設の送迎、医師や看護師が同乗する時は乗務員一名)が乗車する。
車両は緊急性の低い患者を目的地まで安全、安心に搬送。当社では、看護師の乗車による医療処置継続などが必要な人の搬送も行っており、俗に民間救急とも呼ばれる。
今回は走行した様子をルポする。
当日の患者搬送は、県内のA病院から他県のB病院まで約3時間の依頼。県庁所在の市から政令指定都市まで。遠距離へ行く時は、運転手交代による搬送もあるが、当日は患者の家族が搬送目的地の病院で待ち、ドライバーと看護師の計2名の体制だ。
すでに、搬送元病院から患者のADL(日常生活動作)や移動中の継続酸素、労作時酸素流量、看護師同乗などの指定があり、認定を受けている看護師と移送中の注意点などを確認し、搬送先の病院まで書類などの引き継ぎを行った。
定刻、搬送元の病院を出発。乗車の患者さんは「やっぱり、外は良いわ」と、久々の外出と車窓に映る春景色を気持ちよさそうに眺めている。車内にさす日射しが、当初の緊張感を和らげているようだ。
しかし、出発して間もなく、そのムードも怪しい雰囲気に包まれた。高速道路の集中工事が大渋滞を引き起こし、全く前へ進まない。急いで看護師が目的地までの時間と酸素残量を計算する。患者搬送車両は、救急車のように赤色灯火をつけたり、サイレンを鳴らして走ることはできないため、状況に照らして安全運転に徹することが最大の使命だ。
日頃、県外で長距離患者搬送や救急医療に携る人と個人的に情報を交換して様々な事態を想定していたし、看護師から患者のサチュレーション(酸素飽和度)、体調などの的確な情報がドライバーにも伝わっている。ルートを変更することはなかったものの、ただの3時間、されど3時間。田園地帯を走るのに比べて連携プレーが大切。
車内の会話を通じ、時間ロスを気にする患者さんの緊張を和らげる。渋滞の合間を見て、指示通りサービスエリアで軽食とトイレの介助をおこなった。
気がついた時は、やっと渋滞を抜け出していた。看護師が最後に酸素残量や体調を確認したり、体調をチェックする。
「もうちょっとですよ」。 慣れない道だけに高速道路から下りてもハンドルに汗がにじむ。ようやく目的の病院が眼前に迫ったとき、我々スタッフも「よく頑張ったね」と、道中の患者さんを労った。
搬送地の病院では家族が、今や遅しと到着を待っていた。酸素の残量もわずか。急いで病室へ案内し、担当看護師や医師に引き継いで搬送を終了した。
私達が乗せるのは物ではなく、交通弱者や大切な家族と〝心〟を運んでいる。 今後も色々な患者搬送の経験と研鑽を積んで、お客様の安全、安心な目的地への走行に繋げたい。(日本福祉タクシー協会会員。患者等搬送事業。民間救急はあと福祉タクシー代表)
2016年4月28日 AM 4:55