アユなどの淡水魚への被害総額が全国で最大100億円にものぼると言われる「カワウ」。津市内でも雲出川漁協の放流しているアユへの食害が発生し、アユ釣りシーズンに合わせて猟友会と協力した追い払いや駆除をしているが対策に苦慮している。内水面漁業以外への被害が出ていないため、県や津市はほとんどカワウ対策を講じていないが、被害の拡大に備えて慎重な姿勢で臨む必要がある問題といえそうだ。

 

カワウは1970年代に環境の悪化により全国で3000羽ほどまで激減したが、水質の向上などにより繁殖を続けており今では12万~15万羽が生息しているとみられる。それに伴い深刻化しているのがアユなどの食害を始めとした内水面漁業への被害だ。
カワウは食欲旺盛で1日500gほどの魚を食べると言われており、遊漁権を主な収入源とする各地の内水面漁協は釣り客の誘客のために放流したアユを大量に捕食。全国内水面漁業組合連合会の推計によると最大で年間100億円の被害が出ているという。ただし琵琶湖などを除けば、全国的に内水面漁業は遊漁権の販売が主な収入源で、それだけを生業としている人は皆無。近年、全国的に農業へ深刻な被害を与えて問題となっているシカ・イノシシ・サルといった獣害と比べると、対策に取り組んでいる自治体は少ない。
三重県でも、同様の理由でカワウ対策は積極的には行っておらず、三重県内水面漁業協同組合が行った駆除に対する補助と県内各地にあるコロニーの定点観測を行い、生息数をまとめるにとどまっている。その調査によると、津市には雲出川古川の河口付近に県内最大のコロニーがあることがわかっている。同漁協では昨年度は猟友会に依頼し、約600羽を駆除した。
津市では雲出川漁業協同組合がアユの放流を行っており、今年も2345㎏を放流。アユ釣りの解禁を前に猟友会の協力で追い払いや駆除を行っている。昨年度は90羽の捕獲を行ったが根本的な対策にはなっていないのが現状。津市でも県と同様の理由で鳥獣害被害防止計画の対象にカワウを含めるといった対策はとっていない。
ただし、カワウの根本的な対策というのは非常に難しいことが分かっている。自由に空を飛べるだけでなく、広い行動範囲を持つカワウのコロニーを下手に刺激すると分裂して、より大きな被害が出てしまう。そこで営巣地が分裂しないように、巣の卵を偽卵にすり替えたり、卵にドライアイスをかけて孵化しないようにするなど音のしない空気銃による狙撃など様々な対策が講じられている。
対策先進地の滋賀県では企業と連携したシャープシューティングで大きな成果を得ている。これを簡単に説明すると、専門知識を持った人間のみがカワウを捕獲。それを解剖して捕食した魚の種類や量などをデータ化し、それに基づく戦略で個体数調整を行っていく手法。ただ、どの手法にしても、相応の予算と人的資源の投入が必要となることは言うまでもない。
また被害を受けている自治体単独の施策では、広範囲を移動するカワウの対策をするには限界がある。そこでカワウ対策は広域連携に移行している。県が実施している生息数調査も中部近畿カワウ広域協議会としての活動の一環である。
また、コロニーは刺激をしなくても分裂することが確認されていることからも広範囲で生息状況を共有することは非常に重要。更に、本当の意味で対策をするには、カワウの被害がどれだけ発生し、水産資源の減少に悪影響を与えているかを今以上に正確に知ることが求められている。
国は内水面漁業が和食文化を支える水産資源の供給や川やその流域環境の美化などに貢献する多面的な面を評価し「内水面漁業の振興に関する法律」を平成26年に施行している。そういう意味では、内水面漁業に対する考え方をより広げていく必要もある。
また、カワウが引き起こす問題は内水面漁業以外にも及び、営巣地の木が大量の糞で立ち枯れしたり悪臭を放つなど、一般市民の生活に悪影響を与えることも確認されている。例えば、カワウが新たな場所で営巣を始めたことにいち早く気付くなど、市民レベルでも関心を高めることが、大きな対策に繋がるかもしれない。