三重県農業研究所で栽培されている「かおり野」と、開発者の森さん

三重県農業研究所で栽培されている「かおり野」と、開発者の森さん

三重県が開発し、津市や松阪市でも栽培されているイチゴ「かおり野」は、イチゴの重大な病気「たんそ病」に強いという特性を持つ、全国でも希少な品種。
また県外での栽培が認められていることにより生産が拡大し、全国的な知名度や商品価値が向上。県内農業に大きく貢献している。
かおり野の開発は、県内における農業技術の中枢機関である「三重県農業研究所」=松阪市嬉野川北町=で、生産技術研究室長・農学博士の森利樹さん(57)らにより、1990年から18年かけて行われた。
たんそ病に抵抗性を持つ品種は生産者の需要は高いが、イチゴの品種開発においては一般的に、味や見た目など消費者にアピールしやすい特性を伸ばすことが優先される傾向がある。
そこで同研究所では生産者・消費者の両方のニーズに応えるため、「宝交早生」「とよのか」などで交配を重ね、のべ9万3217株の中から、かおり野が誕生した。果実が大きく、子供に喜ばれるよう酸味を抑え気味にした甘くさわやかな味で、食べるときに口の中に良い香りが広がるのも特徴。また収穫は11月頃~6月頃までと、開始が早く、期間が長い。
県内のイチゴ農家にも好評で現在、約300軒のうち、約120軒がかおり野を栽培している(※数字は農協への出荷分。直売や観光農園出荷分は含まない)。
そして2010年の品種登録後、研究所は普及組織・JA・行政と連携によるプロジェクトで販売戦略にも注力。県内だけでは栽培面積や市場が小さいため、三重県に申請し審査を通れば県外でも栽培可能とした。結果、今までに約千件の申請が許諾され、千葉・静岡・山口・熊本県などで生産され全国に流通し、三重のPRにも繋がっている。
森さんは、「県外で栽培してもらうのは、娘を嫁に出すような気持ち。招待されて見に行くこともあります。これから、県内の農業にさらに役立ってほしいです」と話している。
また県が香川県などと共同開発した、かおり野を親に持つイチゴ界のニュータイプ「よつぼし」がこのほど品種登録された。
日本で初めて実用化される「イチゴ種子繫殖型品種」で、従来の株分けで増殖するイチゴと違い種子から育てられるため、病害虫伝染のリスクが少なく、育苗の省力化・種苗の産業化の実現が期待されている。