さわやかな五月の若葉を渡る風が、すがすがしい季節を迎えております。
今回は初夏にふさわしい芝居小唄、時代物として「蝶千鳥」世話物から「髪結新三」の二曲をご紹介いたします。

蝶千鳥

空に一声時鳥 菊や牡丹 の蝶番い
離れぬ仲の群千鳥
富士の裾野に並び立つ
姿なつかし 五月晴れ

「曽我兄弟の討入」の話を小唄にしたものです。この小唄は曽我十郎祐成と五郎時政の兄弟が母より形見に送られた「蝶と千鳥の直垂」を身につけて、首尾よく敵を討ち恨みを晴らすという、曽我兄弟の討入を実録風に脚色したもので、九世團十郎の五郎、五世菊五郎の十郎の「夜討曽我」の時代劇を唄っております。
小唄の「空に一声時鳥」は昭和11年4月、歌舞伎座「團菊祭」の時に出来た曲で、市川三升作詞、草紙庵作曲の小唄です。
市川三升が名優團菊の二人の姿を懐かしく思いうかべ作詞したといわれる秀歌詞で、「菊や」は菊にかけて五世菊五郎、「牡丹」は市川家の替紋で九世團十郎を指し、「蝶番い」と「群千鳥」は母から送られた蝶と千鳥の模様の直垂から兄弟であることを指しております。
この小唄は、草紙庵作曲の自慢の曲の一つで、人々の評判になり、今日まで盛んに唄われております。

次にご紹介いたしますのは、芝居小唄、世話物で有名な「髪結新三」です。

髪結新三

目に青葉 山時鳥初鰹
“鰹、鰹”の売り声を聞く 湯帰りの耳果報
薩摩さ こりゃさ
髷にさしたる房揚枝 浴衣の裾をかいどりて
髪結新三はいいっっ男

この唄は、久保田万太郎作詞、山田抄太郎作曲、昭和33年5月に作られました。皆様も一度は「髪結新三」という言葉を耳にされたことと思います。今回は湯帰りの新三の姿を小唄にしております。
舞台は髪結新三宅の場、梅雨の晴れ間に時鳥の声が聞こえ、小唄の「薩摩さァ こりゃ さァ」の威勢のいい下座で始まります。魚屋が「かつお!かつお!」と呼び乍ら場幕から出るとその後から湯上りの新三が房楊枝を頭に差し、ぬれ手拭に浴衣、三尺帯に下駄がけ、粋な姿で花道にかかります。

唄は江戸下町の初夏の情緒と入墨新三のいなせな姿をうつして絶妙。どこまでも江戸っ子の「いい男」を見せなくてはなりません。
これぞ歌舞伎小唄のイキで、作詞、作曲、演奏とも、戦後最高の歌舞伎小唄といわれております。
風薫る五月。初鰹が食卓を飾る時季になりました。新緑に季節を満喫なさって下さい。
(小唄 土筆派家元)

「小唄の楽しみ ちんとんしゃん」も今回で7回目を迎えて14曲をご紹介いたしました。実際にお聴きになりたい方は稽古場が「料亭ヤマニ」になっておりますので、興味があればお気軽にご連絡下さい。又、津中日文化センターで、講師も務めております。
稽古場「料亭ヤマニ」
電話059・228・3590。