天ぷらを食べたいと思ったけれど、暑くて揚げるのが嫌。外に食べに出ることにした。夫婦二人暮らしはこういう時に便利だ。二人の意見が合えば、いつでも出かけられる。それに二人だと財布もさほど痛まない。これが、四人だ五人だとなると、福沢諭吉が簡単に飛んでいく。
和食屋に入って注文したのは、天丼セット。天丼と小鉢とみそ汁と漬物。丼にはおいしそうな香りの天ぷらが山盛りになっていた。プロの揚げた天ぷらはアツアツでサクサクで最高だ。野菜もエビもキスもある。
食べ物が山盛りにされていると心も満たされる。いっぱい食べたいという気持ちは動物の本能だろう。
甘辛いたれがかかった天ぷらを食べる。レンコン、ゴボウ、サツマイモ、いろんなものが天ぷらになり、それぞれ香りも味も異なるのを、一つひとつ確かめるように食べていく。
そして、その瞬間が来た。もう十分お腹が満たされた。満足だ。でも、まだいっぱい天ぷらが残っている。そこから気持ちが変化した。さきほどまでの幸福感は消え失せ、義務感と忍耐力で箸を動かす。せっかくの天ぷらを残してはもったいない。もう少しなら食べられる。
いっぱいあることがあんなにうれしかったのに、もはや見るのもつらくなる。我ながら勝手な心の動きだと思うがどうしようもない。(舞)