一日目の終着点の美里総合支所下

一日目の終着点の美里総合支所下

五百野皇女の碑を過ぎたところで17時過ぎ。タイムリミットの日没まで1時間ある。だが、肝心の両足が悲鳴を上げている。今日中に長野峠へと到着するのは難しいと判断し、美里総合支所下のバス停にゴールを変更。なんとかそこまで向かうことにする。
五百野の集落を越えると、すぐに国道163号とグリーンロードとの交差点。この道は津市と松阪市を結ぶ広域農道。その名の通り、収穫物を運ぶ通作道や農作物の流通のために活用しているだけでなく、生活道路、産業道路的など、多面的な役割を果たしている。  更に国道を進むと、北側に旧津市立高宮小学校の校舎がみえる。高宮小は今年4月に辰水小、長野小、美里中学校と統合し、三重県初の義務教育学校「みさとの丘学園」へと再編されている。学び舎というものは、不思議な存在で、長い人生のうちで、これほど、一日一日の出来事が鮮烈に刻まれている場所はない。ここに何度か取材でお邪魔した程度の私ですら、その時の記憶が蘇るほどだ。それだけに地域の人たちにとって特別であり、義務教育学校という全く新しい形での統合に至るまでに様々な意見が交わされたに違いない。校舎は地域の人々によって利活用が模索されており、新たな形でまた人々の記憶に刻まれる存在になるだろう。
小学校を越え、今にも自身の体重と重力に屈しそうな体にムチを打ち、なんとか目的の津市美里総合支所下のバス停に到着。疲労はピークに達しており、バス停付近のアスファルトに身を投げ出し、大の字で天を仰ぐ。少し落ち着いてところで、〝一服〟する。といっても煙草ではない。好きな音楽を聴いて、疲れを癒すことを私は一服と称しているのだ。
スマートフォンを取り出し、スウィング・アウト・シスターのブレイクアウトを再生する。私にとっては特別な一曲で、辛い時や、落ち込んだ時に、何度勇気をもらったか分からない。
バスがくるまで40分ほど。次のルートについて試案を重ねる。目標の長野峠まで行けなかったのが少々痛い。というのもこの旅は、前回中断した場所まで公共交通機関で移動した上で再開というルールがあるからだ。長野峠付近には平木のバス停があるため、移動は比較的用意だが、トンネルの向こうの旧大山田村からはそうはいかない。鉄道が通っている旧上野市街までは一気に歩いてしまわないと辛い。距離的に今回と比較にならないが、出来ない理由を並べても仕方がない。
際限なく広がるネガティブな思考を〝ブレイクアウト〟するために音楽のボリュームを上げ、聴き入っているとちょうど帰りのバスが到着。「旅はまだまだこれから」。心の中でそう呟いて、私はバスに乗り込み帰路についた。(本紙報道部長・麻生純矢)