6日、津市一身田豊野の高田短期大学で『女性アスリートのセカンドキャリアを考えるシンポジウム』が開催された。主催=同短大キャリア研究センター、百五銀行、百五総合研究所。共催=三重県体育協会、みえ女性スポーツ指導者の会、伊賀FCくノ一。近年、活躍する女性アスリートが増えている一方で引退後のキャリアや、出産と子育てなど女性を取り巻く課題について有識者らが意見を交わした。

 

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

基調講演は日本陸上連盟の科学スタッフとしてオリンピックなどで活躍するトップストリートの科学的サポートをしている日本体育大学体育学部教授で前三重大学教育学部教授の杉田正明さん。テーマは「女性アスリートのセカンドキャリアを考えるシンポジウム」。
杉田さんはアテネオリンピック以降は女性の方が男性よりも金メダルの獲得数は多いが、結婚、妊娠、出産、育児という女性ならではの課題があり、オリンピック選手の引退年齢も男性31歳に対して女性26・9歳と如実に数字に表れているというデータを提示。世界と比べ若年層と30歳前後のメダル獲得数の少なさから、その両世代への手厚い支援を訴えた。
更に月経など女性特有の生理機能が損なわれることによる身体への悪影響と、貧血対策などで、中高生アスリートに当たり前のように使われている鉄剤注射の危険性を指摘。セカンドキャリア以前に女性アスリートが安心して競技に取り組める環境整備も課題とした。
スポーツ庁の女性アスリートに対するアンケート結果で、約8割が引退後もスポーツに関わりたいと回答しており、4割が指導者になりたいと答えている一方、過去のオリンピックの女性コーチの割合が約11%ほどしかない点を指摘。三重県の国体の監督でも54名のうち女性は3名にとどまっており、周囲に模範となる女性指導者がいないことが女性指導者が少ない原因という構造的な問題を提起。現役選手としてトレーニングを続けながら、引退後に指導者となるために必要な知識などを学ぶデュアルキャリアという考え方を浸透させることが必要とし、海外ではオリンピック選手が引退後に、指導者のみならず、医師や弁護士になった選手もいることから、「自助努力だけではなく国家レベルの支援対策の確立が必要」と語った。
第2部のパネルディスカッションでは、杉田さんがコーディネーターを務め、パネラーとして、シンクロナイズドスイミングのメダリストで、みえ女性スポーツ指導者の会会長の武田美保さん、デンソー女子陸上長距離部部長の堀誠さん、高田短期大学サッカー部監督でオリンピックやワールドカップの出場経験もある宮本ともみさん、住友電装女子ラグビーフットボールクラブPEARLS選手・キャプテンの伊藤絵美さん。
各々の立場から現状や課題の意見を交わしたが、特に注目を集めていたのは宮本さんの意見。宮本さんは、日本スポーツ振興センターの女性エリートコーチ育成プログラムの第1期生で女性アスリートのセカンドキャリアのロールモデルともいえる存在だが、現役選手時代に結婚、出産、育児を経験。「結婚する時に周りからは引退するのかと言われた」と当時を振り返ったが、米国の選手が子育てしながらワールドカップで活躍する姿を見た経験から現役続行を決意。それを受け、日本サッカー協会も合宿中にベビーシッターをつけて競技に専念できる制度を新設したことや、現役中に指導者資格が取れる制度がなかったことなど、先駆者ならではのエピソードを紹介した。