久しぶりに出かけた回転ずし店は、案の定混んでいた。受付機の横の待合コーナーには、老若男女がひしめいていた。視線のやり場もなくて、壁のポスターを見ると、「節分海鮮太巻」、「地元の旬素材」などの文字が躍っていた。
ようやく番号が呼ばれて席につくと、私はいそいそとタブレット操作に取り掛かった。まずは「期間限定!売切れ御免!」と書かれたすしをタッチして注文する。「おいしそう!」
「きっと売切れなんて発生しないだろうけど、このすしが魅力的に見えてしまう」と自覚した。メニューの一番先に出てきて、「限定」と書かれていたら、誰もがタッチするだろう。多くのすしの中から自分で選んだつもりでも、実は店に選ばされている。
これは、行動経済学で言うところの「ナッジ」だろう。特定のすしを選ぶように、そっと背中を押されている感じ。
店の利益が大きいものばかりに誘導されたら悔しいが、新鮮で安くておいしいすしが食べられるなら、客である私には何の不都合もない。特定のものに集約して仕入れることでコスト削減になるなら、店だけでなく客も利することになる。
たぶん、他にもいろんな場所でナッジが仕掛けられていて、私たちは気づかないうちに特定の行動をさせられているだろう。それでも良いけれど、少し気になる。(舞)