暦の上では、早くも節分・立春を迎えようとしておりますが、新春とは名ばかりの寒さが続いております。その一方で辺りを見回せば、いつの間にか小さな春の訪れを見つけ、蠟梅の黄色い花が、甘い香りを漂わせ、暖かい日の光が窓からさしこみ、嬉しくなるのもこの季節です。
今回は節分・立春にふさわしく、歌舞伎小唄から「吉三節分」江戸小唄より「山谷の小舟」と一連の「春風がそよそよと」
をご紹介いたします。

「吉三節分」

月も朧に白魚の 篝  も霞む春の夜に
冷たい風もほろ酔い  の 心持よくうかう  かと
浮かれ烏の唯一羽   塒へ帰る川端で
竿の雫か濡れ手で粟  「御厄払いましょう  厄落し」「ほんに今  夜は節分か こいつ  ぁ春から」縁起がい  いわぇ

歌舞伎は阿竹黙阿弥作「三人吉三巴白浪」という世話物で、お嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三、三人吉三の白浪(盗賊)の物語で、「大川端庚申塚の場」が舞台となっております。
この小唄は草紙庵が幾多の研究資料を集め、自信をもって発表したもので、芝居のセリフと下座と舞台との間をたっぷり使って唄う従来の小唄から一転して、「語る小唄」を意識して作曲したもので、歌舞伎の危機の声がささやかれていた昭和五年に、突如世に問うたのが吉三節分でした。これまでの歌舞伎小唄にみられぬ新鮮さがあるという事から、小唄好きの市川三升、守田勘也、日本画家の伊東深水などの、演劇人、知識人達が相談し、都内の花柳界にもこの小唄を流行らせるよう努力した結果、またたく間に話題に上るようになり、草紙庵の歌舞伎小唄の決定版となって、今日迄伝承されております。

「山谷の小舟」

山谷の小舟 着いた  着いたおお着いた
待乳山風 手拭でし  のぐ 雨か霙か
ままよままよ 今夜  も明日の晩も流連け  しょ生姜酒

明治中期の作で「山谷の小舟」とは吉原通りの猪牙舟の着く山谷堀のことをいいます。客の一人が山谷堀に着くのももどかしく、「おお着いた着いた」と舟から飛び下りると、季節は二月初めの立春の頃、春とは名のみで夜風は冷たく、雨か霙か手拭で寒さをしのぎながら、日本提を小走りに走り出すといった風景を唄っております。

「春風がそよそよと」
春風がそよそよと   福は内へとこの宿へ  鬼は外へと梅が香添  ゆる 雨か雪か
ままよままよ 今夜  も明日の晩も流連け  に玉子酒

この唄は「山谷の小舟」の替唄で廓は福は内、鬼は外と節分の豆まきをした翌日の立春の日で、春風が吹くと福とをかけ、お庭と鬼は外とかけた遊び唄です。庭の梅の香に匂ってくる部屋で、今降って来たのは雨か雪か、「それなら居続けるだけさ」と盃を傾ける風景を唄ったもので、当時とても流行った小唄です。
小唄 土筆派家元

「小唄の楽しみちんとんしゃん」も今回で10回目を迎え21曲をご紹介いたしました。三味線や小唄に興味のある方、初めての方など大歓迎です。実際にお聴きになりたい方は稽古場か「料亭ヤマニ」になっております。お気軽にご連絡ください。又、中日文化センターで講師も務めております。
稽古場「料亭ヤマニ」☎059・228・3590。