(前号からのつづき)
足元の米10年国債利回りは2・5%台・米2年国債利回り1・97%、その利回り差は0・5%になります。この差は今後2回の利上げ(0・25%×2=0・5%)で埋まる計算です。その時期は今年の3月と6月のFOMC連邦公開市場委員会開催時後になります。
1987年以降、米長短金利と景気後退の関係では、利上げが続いて短期金利が長期金利を逆転してからしばらくして景気後退や株価下落が起きてきました。
長短金利逆転1989年と景気後退1990年、同2000年と2001年、同2007年と2008年が同様の現象になっています。
他に株価と売買高の関係にも構造的な変化が出ています。2017年は米欧や新興国の株価指数が相次いで過去最高を記録し、日経平均も26年ぶりの水準を回復、世界の株式時価総額が最高を更新しているにも関わらず、株式の売買代金が減少しています。
世界の株式の11月までの売買代金は75兆ドルと前年同期比5%の減少となっています、売買回転率も1倍(全ての上場株式が1回売買された)となっており、前回時価総額最高(75・6兆ドル)、更新時の2015年の売買回転率の1・7倍と比べても少ない。
要因には世界的にパッシブ運用(日経平均やダウ平均などに連動する運用)が拡大しているからです、銘柄を機動的に入れ替えるアクティブ運用より回転率は低くなります。小幅の上昇が続き売り圧力も少ない、世界の株価が軒並み最高値圏で推移し戻り待ちの売りが出てこない、歴史的な変動率の低さ、低金利・低インフレ下で穏やかな相場展開が続き短期的な取引機会が見いだせていない。2017年の特徴としては売買高が少なく、低回転・低変動という新状態の中で上昇を続けた世界の株式市場といえます。高値圏での株価変動率の低位安定は波乱の前兆でもあります。
更に近年の投資家は価格変動率を目標に定める取引が拡大しています。世界の株式債券市場は適温相場を享受し、それぞれ残高が急拡大しています。投資家は次第に大胆にレバレッジ(他人からお金を借りて取引を膨らませる)をかけて金融資産を積み上げているわけです。
近年のように株価や債券価格の変動率が小さくなるとその分運用額を積み上げてカバーするわけです。
折しも金利は低くお金がだぶついているためレバレッジをかけて投資を拡大するのは自然の動きとなります。実際の価格変動率は16年1月株式12%から17年7月7%に低下、債券も4%低位安定の状態です。
例えば年12%の価格変動率を目標に全体の6割を株式で残りを債券で運用した場合、何倍の投資金額が必要かの試算では、16年1月は1倍に対し17年7月では2倍を超えます。
市場の買い手が増える分、短期的に相場は安定し価格変動率はますます低下し、投資家は目標確保のため外部負債拡大の投資に依存します。今後実際の価格変動率が跳ね上がった場合、この投資活動は逆回転、つまり急激に投資金額が縮小されることになります。投資金額の縮小は売りがさらに売りを呼ぶことです。
2017年に最も相場変動の大きな金融商品としてビットコインが掲げられます。
仮想通貨ビットコインの価格が昨年12月に一時年初の20倍に急騰したのは株や為替の値動きの乏しさに嫌気を示した投機マネーが群がったためと言えます。その上昇率は2000年前後のITバブル時代のハイテク株をはるかに上回る上昇幅と上昇スピードを記録しています。
その仮想通貨バブルにも転機が訪れようとしています、ビットコイン価格が同月に1日で29%下落し1万1000ドルを割りました、1週の下落幅は5000ドルと週間で過去最大を記録。1日の下落率でもリーマンショックなど他の市場の歴史的な急落記録を超えています。2015年1月スイスフランショックで通貨16%安、16年6月英EU離脱投票ポンド14%下落、08年リーマンショック時の日経平均11%下落、11年3月東日本大地震日経平均10・5%、バーナンキショック13年5月、日経平均8%下落などがあります。
さらに今年に入りビットコインは1万ドルを割りました。
今年カネ余りが株式以外に石油や不動産価格などの予想外の上昇につながり、金融当局が利上げピッチを速めることで、長短金利逆転が早まりそうなら景気に先行して動く株価は今年下期以降調整に転じる可能性があります。
(終わり)