この日のスタート地点である伊賀市役所付近

この日のスタート地点である伊賀市役所付近

津藩校・有造館の支校の崇廣堂前

津藩校・有造館の支校の崇廣堂前

西尾デンキの前で…友人の西尾君

西尾デンキの前で…友人の西尾君

3月29日9時頃。前回のゴール地点である伊賀市の上野市駅付近から、国道163号を歩き始める。天気は良好。この日は津市を始め、県内各地で気温25度を越える夏日に。私が着ている登山用パーカーは、本来なら季節に即した服装であるはずだが、既に無用の長物となりつつある。
伊賀上野城を仰ぎ見つつ、桜に彩られた伊賀市役所、上野西小学校、上野高校と国道沿いに広がる景色を楽しむ。桜の開花が例年よりも早いこともあり、どの木も満開。風に舞い散る花を愛でながら、日本の春の美しさを噛みしめる。
今日は伊賀市から京都府へと入るルートだが、本格的に歩き始める前に立ち寄るところがある。津藩の藩校・有造館の支校で国史跡の祟廣堂の向かいにある電気店「㈲西尾デンキ」だ。
このお店は、私の友人の西尾浩史君が父母と共に営んでいるいわゆる街の電気屋さん。祖父の代に創業して約50年間、家電製品の販売や電気工事などの事業で多くの人々の暮らしを支えている。西尾君は電気工事の技術などを競う全国大会で3位相当の銅賞に輝いたこともある腕利き。同い年で仲良くしているが、友人として見習うべき部分も多い。
家電量販店とネット通販が大勢を占める中、街の電気屋さんは決して楽な稼業ではない。そこで「うちはサービスで勝負やから」という西尾君の言葉通り単純な価格競争ではなく顧客が必要としている商品を行き届いたサービスと共に提供し、信頼を得ている。ネットを通じ、人と直接ふれあうことなく、世界中の様々なサービスが利用できるようになって久しい。それに伴い、社会全体の人間関係が希薄化する中、顔の見える温かい地域密着型のスタイルの良さも際立つといえる。
店のカウンター越しに世間話をしていると、あっという間に1時間が経過。「そろそろ出発するよ」「ああ、気を付けてな」。椅子から立ち上がり店から出た私を西尾君が見送ってくれた。時刻は10時。私は意気揚々と歩き始めた。(本紙報道部長・麻生純矢)