国道163号沿いに咲く桜(南山城村北大河原付近)

国道163号沿いに咲く桜(南山城村北大河原付近)

黒川紀章氏が設計した「やまなみホール」

黒川紀章氏が設計した「やまなみホール」

国道を彩る景色はのどかだが、相変わらず歩道は途切れ途切れ。近畿と中部を結ぶ抜け道として、利用する大型車も多いので、大きな身体をすくめながら進む。
しばらくすると国道は北大河原バイパスと本線に分岐。バイパスは歩行者通行禁止なので、本線を歩いていく。南山城村の中心部に位置する北大河原は、現在の奈良市柳生町に本拠を構えた柳生藩が治めていた江戸時代には、村内で一番の石高を持つ大村で国道のルーツである伊賀街道の宿駅だった。今でも、村役場はこの地域にある。
柳生藩はわずか1万石余りの小藩だが、その名を知らしめたのは、剣豪して名高い藩祖・柳生宗矩と息子の十兵衛こと三厳親子。二人は江戸時代の講談を始め、現在でも漫画やゲームなど様々な創作物で虚実を織り交ぜながら〝伝説の侍〟として語り継がれている。以前紹介した伊賀出身で鍵屋の辻の決闘で有名な剣客・荒木又衛門が三厳より柳生新陰流を学んだといわれる逸話も伊賀街道が結んだ立地によるところが大きい。今では真偽を問う声も大きいが、自分で歩くと、そんな話が出てもおかしくない距離感に思わず納得する。
少し早めの桜が素朴な山里の風景に格別の彩りを添える。歩道は途切れがちだが、平日午後に本線を通る大型車は無く、ようやく景色を楽しみながら歩くことができる。 昔ながらの集落をしばらく進むと村役場。その向かいには、ひと際目を引く建物が建っている。この建物は、世界的に有名な建築家である故・黒川紀章氏が設計した村の総合文化会館「やまなみホール」。ホールの入口に並ぶ塔や、波打つような屋根など、特徴的かつ洗練された姿がひときわ目を引く。村史によると、黒川氏は水と森など豊かな自然環境に恵まれた村の風景を大変気に入り、建設用地の選定にも携わったという。
ホールは外観だけでなく、音響効果にも優れており、国内外の音楽家たちにも高く評価されている。このホールや、同じく村内にある英国人の世界的建築家リチャード・ロジャースが設計に携わった南山城小学校に共通して感じるのは、村に息づく〝本物志向〟。
前者は1991年、後者は2003年完成で、20年近く隔たりがあり、時代背景が大きく変化している。求められる政策や財政状況も変化しているはずだが、小さい村だからこそ、未来に投資する教育や文化施設をしっかり整えたいという揺るぎない意志の表れだろうか。村に息づく侍の心を感じてしまう。(本紙報道部長・麻生純矢)