国道163号の恭仁歩道橋(京都府木津川市加茂町河原東大門)

国道163号の恭仁歩道橋(京都府木津川市加茂町河原東大門)

木津川市加茂町銭司から少し進むと、間もなく「湾漂山トンネル」。短いトンネルだが、新しく歩道も広いため、歩き易い。朝からここまで心が削られるような辛い道のりが続いてきたこともあり、「こういう道がずっと続けば良いのに」と本音がポロリ。
歩く人が居ないから路肩が狭く、歩道もない箇所が多いのか、はたまた逆なのか。ロードバイクでツーリングを楽しむ人が増えている昨今。この日も何人かの自転車乗りとすれ違っていることを考えると、インフラさえ整えば、日本各地を歩く人が増えてもおかしくない。歩く人が増えれば、〝燃料〟を補給する飲食店も増え、宿屋も増えるのではないか。自動車などと比べるとに進むスピードも遅いので新しい需要も生まれるのではないだろうか、などと都合の良い妄想をどんどん膨らませながら歩いていく。
そうこうしていると、「ぐぅ…」と腹の虫の悲鳴。我に返ったところで時計に目をやるともう13時前。朝から何も食べていないので、仕方がない話だ。
空腹を抱えた私は、少し歩みを早め、周囲に飲食店がないか探してみるが、最初に見つけた店は残念ながら定休日。ひょっとしたら昼食にありつけないかもしれないと嫌な予感がよぎったところで、次に見つけた和食屋に入ることができた。
私は店内に入り、カウンター席に腰掛けると、手早くうどん付きの日替わりランチを注文。お冷を一気に飲み干すと、喉から身体の隅々まで清涼感が広がっていく。
店内は昼時を少し過ぎたにも関わらず、笑い声が絶えず響いている。先客の方に目をやると、同じ制服を着た中年の男性10名ほど。どうやら、全員タクシー運転手のようだ。会話に聞き耳を立てていると、「あそこのお寺の入口はかなり狭い」「名ドライバーの〇〇さんやったら、問題ないやろ」というような会話が聞こえてきた。どうやらこの辺りの観光名所を巡る研修しているようだ。
ほどなくして、料理が運ばれてくる。ランチは薄味だがしっかり出汁のきいたうどんと、からりとあがった天ぷらで構成されている。私は手を合わせ「いただきます」と小声でつぶやき、料理を平らげていく。
人心地ついた私は食事もほどほどに、運転手たちの会話に聞き耳を立て始める。すると、運転手の一人が、「苦手なお客さんおる?」と話題を振ると別の運転手が「若い女の子」と即答。なるほど、異性かつジェネレーションギャップ。私でも気を遣ってしまう相手だ。続いて、更に別の運転手が「やっぱり、酔っ払いやろ。俺も酒好きやけど」と答える。そこで一同爆笑。
そこからは酔客に困らせられた様々な思い出話を運転手たちが口々に話し始めた。これが、ただの愚痴であったら、聞くに堪えないが、終始明るい調子。こっそり聞いている私も思わず笑ってしまうようなエピソードも多い。時折、飛び出す辛い出来事も笑い飛ばしながら最後は「我々の仕事はお客さんあってのことやしな」と頷き合うのはお見事。もちろん彼らは私がカウンターの隅で会話に聞き耳を立ているとは思っていないだろう。それなのにこんな人たちが運転するタクシーなら乗りたいと魅了されてしまう。これこそが運転技術だけにとどまらないプロのドライバーの技なのかもしれない。
食事を終えた私は、会計を済ませ、空腹も心も満たされたところで近くの歩道橋に目をやると「恭仁」の二文字。これは、〝幻の都〟がこの辺りにあったことを示す足跡だ。ちょうど紙幅も尽きたところなので、その詳細は次回に譲るとしよう。(本紙報道部長・麻生純矢)