ラスベガス・サンズの会長アデルソン氏は、かつてトランプ氏が経営していたカジノのライバルである。ところが、調査報道で知られるニュースサイト『プロパブリカ』は10月10日、2017年2月にトランプ大統領が安倍首相とフロリダで会談した際、ラスベガス・サンズに対して日本参入の免許を与えることを検討するよう強く求めたと報じた。然もありなん、アデルソン氏は大統領の熱心な支持者である。「昨日の敵は今日の友」は日米関係だけではない。
とはいえ、58名もの犠牲者を出した、昨年10月のラスベガス銃乱射事件の記憶もまだ消えやらぬラスベガス・サンズである。そのアデルソン会長は、事件の前月9月に大阪府庁を訪問し、日本のカジノ事業で厳しい面積規制を導入しないようにと訴えていた。結果として、今年7月に成立した『IR整備法』に、政府案に当初盛り込まれていた面積上限の数値が含まれる事はなかった。
また、日本では報道されていないが、フロリダでは他社の名前も上がったとされる。一つはご存知MGMリゾーツ、そして、会長が共和党の国家委員会を運営しているウィン・リゾートである。彼らにしてみれば、日本は最後の開拓地なのだ。
そうは言っても、MGM独占の可能性は政権交代後はあまり高くはないようである。この会長は、民主党のオバマ前大統領より国家インフラ諮問委員会に任命されていたし、更には、MGMリゾーツの日本法人の代表執行役員兼社長が、民主党オバマ政権末期にキャロライン・ケネディの後任として在日米国大使館臨時代理大使だった上級外交官だからである。
プロパブリカは、外国首脳との会談で、献金者の利益に直接結びつく話を持ち出すのは外交儀礼に反するとしている。だが、密室で決められるよりマシである。
2012年10月のウォールストリート・ジャーナルによると、2008年の選挙戦におけるオバマ陣営への献金は金融業界が最も多く、全体としては4300万ドルを献金しており、また、JPモルガン・チェースとシティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスの従業員も350万ドルを寄付した。
結果として、彼らは二期目の選挙戦では離反したとはいえ、いわゆる市場原理主義の黄金時代を築き、格差社会を拡大したのだ。
トランプ大統領は、1999年に民主党のクリントン大統領によって廃止された「グラス・スティーガル法」の復活によって、その是正さえも念頭に置いているのである。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)
※プロパブリカ アメリカ合衆国の非営利・独立系の報道機関。公益を目的とした長期間にわたる独自取材によって行政や企業の不正・腐敗を明らかにする「調査報道」を専門とする。
※グラス=スティーガル法 1933年に制定されたアメリカ合衆国の連邦法。1980年代のレーガン政権(共和党)下で規制緩和、自由競争の復活という経済路線が強まり、証券と銀行の分離を原則とする1933年銀行法(グラス=スティーガル法)の見直しが始まった。1990年代のIT好況に転じたアメリカ経済を背景に、1999年11月、共和党が多数をしめる上・下院はグラス・スティーガル法を廃止し、銀行・証券・保険を兼営する総合金融サービスを自由化する法律(グラム・リーチ・ブライリー法)を可決、クリントン大統領(民主党)が署名して成立した。このように新自由主義に基づいて金融をも自由競争にさらすことになったアメリカ経済はその後、金融工学というコンピュータ依存の金融商品が暴走し、サブプライムローンなどの問題を引き起こすこととなった。