007映画のツイッター公式アカウントによると、キャリー・ジョージ・フクナガ監督による新作の撮影は、パインウッド・スタジオで、今年の4月からだそうである。一方、ノルウェーの Dagsavisen 紙によると、007の新作ロケがノルウェーで行われるとの事。ノルウェーには政府のバックアップがあり、海外プロダクションの作品に対し、現地撮影費用の最高25%が還元されるインセンティブ・スキームを組んでいる。国際的に影響力の大きい007映画のロケーションは、半恒久的な知名度向上になるので当然である。
この、イアン・フレミングの007号ジェームズ・ボンド小説とイオン・プロダクションによる映画の世界的ヒットは、ソビエト連邦当時のKGB長官セミチャーストヌィも大いに刺激した。東西冷戦に大きな影響力を持っていることを危惧したからだ。長官は、イズヴェースチャ紙にこの問題に触れた論文を寄せると、東側情報部員の活躍を描くようにと、ソビエト国内のみならず東側諸国の作家達にも訴えた。その一つがブルガリアのアンドレイ・グリャシキが書いた、『アヴァクーム・ザーホフ対07』(新版では『もう一度007』)である(早川書房から出ていた邦題は『007は三度死ぬ』。ハヤカワミステリマガジン1967年2月号に掲載された旧版では『ザホフ対07』だった)。
本編の主人公ザーホフは、ブルガリアの防諜部員で元考古学者。彼の任務は、量子エレクトロニクス・シンポジウム出席のためにブルガリアのヴァルナを訪れるモスクワの核物理学者トロフィモフ教授を狙う、英国の諜報員007を追うことである。実のところ、ザーホフの冒険譚はシリーズになっており、彼は過去に一度007に遭遇している。今回はリターンマッチだというわけだ。
一方、本書の007の任務はNATO軍総司令部第二課から下されたもので、英国秘密諜報部では偽装休暇の扱いである。作戦名は『光作戦』。これは、トロフィモフ教授が発明した特殊レーザー光線に因んだもので、いかなる鏡にも屈折せず、すべての物質を通過し、すべての電磁波を無力化する恐るべき兵器である。洋の東西を問わず男の子が好きそうな話だ。
舞台はロンドンに始まり、パリ、イスタンブール、タンジールを経て、教授とその美人秘書を乗せたNATOの偽装タンカーが、地中海から南極へと地球スケールの旅をみせる。二人は007に騙され、ロシア船だと信じ込んでいるのだ。
戦犯ドイツ人教授に成りすまして乗船したザーホフは、南極の氷に破壊されたタンカーからトロフィモフ教授と秘書を救出、西側の砕氷船とソ連南極基地からの救援機が迫る中、東西の諜報員は雪原での最後の格闘に挑む。
その結果は…つまるところ、東側と西側のヒーローとヴィランの置き換えである。
イアン・フレミングの本や007映画によると、ブルガリアの諜報員は常に悲惨な扱いだが、アヴァクーム・ザーホフは賢明で、腕っぷしも007と互角である。本書で悲惨な扱いなのは日本の諜報員だ。日本人もレーザーの秘密を狙っていて、タンカーのクルーとして潜入していたが、007に正体を見破られて殺されてしまう。日本も西側に与していた筈なのだが、二枚舌が信用できないからだろうか?
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)