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1月26日、昨年2月に県内で撮影された『半世界(アナザーワールド)』の特別試写会に行ってきた。会場はこの映画が撮られた南伊勢町にある公民館である。鉄道駅がない町なので車で向かったが、太平洋に面した志摩半島南側であるにもかかわらず、この日は小雪が迎えてくれた。招待客は200人前後で、その多くは地元住民のようであり、殺到防止の為か、入口は『町内』と『町外』に分けられている。
この映画は、第31回東京国際映画祭コンペティション部門の観客賞受賞作で、全国ロードショーは2月15日からとなっている。メジャーではないインデペンデント系の映画だ。ところが、東京グランプリを選出する『国際審査委員会』の委員長であり、フィリピンの映画監督メンドーサ氏は、『半世界』と『愛がなんだ』はアートではなく娯楽作品だと断じ、両作を候補に入れた映画祭事務局を批判していた。
確かに『半世界』はアートではない。だが、血湧肉躍る娯楽作品でないことも確かだ。
ネタバレになるので詳細は差し控えるが、日常生活におけるドラマ性の点では『東京物語』さえ彷彿とさせる。しかしながら、小津安二郎監督とは違い、この阪本順治監督の『半世界』では舞台を特定する事はできない。言葉は標準語であり、舞台を特定するテロップもなく、ダイアローグにも登場しない。分かるのは地元住民だけなのだ。リアリズムとは無縁である。
そして、このことは追体験を求めるスクリーン・ツーリズムとしては点睛を欠く。観光誘致のPR予算も別枠で準備しなければ訴求力はない。釣り客に混じって、日帰り客は来るだろうが、宿泊客や、況してはインバウンドにまで達するかは疑わしい。何しろ、この映画に実名で登場したのは、イアン・フレミングの『007号は二度死ぬ』に登場した松阪市の和田金と、創業100年を超える老舗の割烹旅館八千代だけだったのだ。
もちろん、映画は観光客誘致の為のツールありきではないとの声もあるだろう。だったら、フィルムコミッションの介在がいまいち解せないし、首長の壇上挨拶も疑問である。映画という商品に出資したというのならば地名の明確化は当然だし、出資してもいないのならば、首長の登壇は単なる政治利用にしか映らないからだ。
『半世界』はメジャーではないので、三重県内での上映館は伊勢市の新富座だけである。稲垣吾郎の新境地開拓だけにヒットを期待したいものだ。そして、賑わう内宮前とは対象的に廃ホテルが放置された寂れた繁華街の中に、伊勢市の現状を目の当たりにするのも一興だろう。
それこそ正にアナザーワールドである。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)
2019年2月21日 AM 4:55