【統計による世論コントロール】
統計は現在地を知る羅針盤のようなものである。まるで今の日本はそれが壊れた船に乗っているかのようだ。
2月17日の朝日新聞によると、『毎月勤労統計』の調査手法について、2015年11月の経済財政諮問会議で閣僚らが変更を促していた。もともと勤労統計では、従業員500人以上の事業所全部を調べる必要がある。にもかかわらず、厚生労働省は2004年から東京都分で『抽出調査』をしていた。2018年1月からは密かに抽出調査の結果を本来の全数調査に近づける『データ補正』を始めていたのだ。
また、従業員30~99人の中規模事業者については、調査対象を2~3年で『全数入れ替え』だったのを『部分入れ替え』としていた。『全数入れ替え』では、新興企業や経営難の企業が加わってくると、賃金指数(現金給与総額など)が下がりやすいからだ。その上で厚生労働省は、実勢と整合性をとる為に過去のデータを修正するのだが、その多くは『下方修正』となり、2015年1月の入れ替え時も、民主党政権時代の2011年を上回ったはずの2014年の賃金指数が逆に下回る結果になった。
この下方修正を、2015年3月に首相秘書官(現・財務省関税局長)が厚労省に問題意識として伝達。10月16日の諮問会議では麻生財務相が調査対象の入れ替え時に数値の変動があることを問題視、統計委に具体的改善策を早急に検討するよう求めた(つまり、逆説的に景気の悪化を認めていたのである。あまねく景気が良ければ入れ替える度に上昇する筈だ)。
そして極めつけは、11月4日の諮問会議で日銀総裁が「直近の名目賃金のマイナスは統計上のサンプル要因が影響。実勢は緩やかに上昇していると考える」とし、勤労統計を念頭に統計データを否定した事である。これを、当時の伊藤東大大学院教授や高市総務相も呼応して統計問題の議論を締めくくり、西村統計委員長が12月11日の統計委部会で対応を指示。このとき、厚労省の担当課長は勤労統計を『全数入れ替え』から『部分入れ替え』にして、入れ替え時の数値変動を縮小する考えを表明、過去の修正もやめる方針を示した。
課長は、数値が低く出る新サンプルの方が真の値に近く、入れ替えのたびに真の値と乖離する点も認めたとされるが、注釈で注意喚起するとして方針を変える事はなかった。結果として、統計委は翌2016年に『部分入れ替え』導入を盛り込んだ報告書を作成。勤労統計は2018年1月より『部分入れ替え』を導入し、過去データの修正もやめた。
大きな問題は、そこに日銀総裁の意志がある事だ。世論コントロールで株価コントロールをも期待していたのだろうか?
だとすれば、日銀に対する海外投資家からの信用失墜は時間の問題である。独立性を失っているからだ。2月19日のロイターによると、麻生財務相は午後の衆院財務金融委員会で、この事をついた旧民主党政権最後の元首相からの質問に対し、「積み重なると(日本の統計は)信頼性を欠くことになる。極めて深刻に受け止めている」と述べた。ギリシャの債務危機も、発端は不正統計問題からだったからだ。
実のところ、この指摘は2月13日の夜に、NHKニュースウオッ9で放映された内容と重なるコメントである。だが、その放送内容は直ちに消され、アーカイブされてはいない。そこには外国人投資家からの極めて鋭い意見があったのだ。著名投資家の一人であるジム・ロジャーズ氏は、「日本株は7、8年保有してきたが、昨年秋に全て売った。株も通貨も、日本関連の資産は何も持っていない。人口減少という構造的な経済減速要因に加え、日銀が大量のお金を刷り続け、日本株や国債を買い支えているのも売りの理由だ」と述べていたのだ。 (次号に続く)
(O・H・M・S・S代表)