検索キーワード
三重の木を使い、腕の良い大工が建てる家づくりに取り組む『㈱川瀬建築』=津市安濃町前野=の代表取締役・川瀬泰弘氏と、日本の職人技とヨーロッパの考え方を融合させたパッシブ系住宅をめざす「ほっとハウス」長谷川建築=同市一志町高野=の代表・長谷川竜司氏の対談。各々の家づくりへの思いや、住宅業界を取り巻く環境に対し、地元工務店がどう関わるべきなのかを聞いた。(聞き手は本紙報道部長・麻生純矢)
─まずはお互いの家づくりのこだわりについてお話ください。
川瀬 やはり、集成材ではない自然乾燥にこだわった「三重の木」の認証材を使った家づくり。そして、それを支える職人へのこだわり。大手だとお抱えの電気工事業者だけでも何社もいますが、うちは電気、内装など、各仕事ごとに、選りすぐりの職人を使っています。こうすることで家づくりにムラができません。その一方、年間10棟しか、建てることができません。腕利きの職人たちが壁の中の柱や、電気の配線など見えないところまでこだわりぬいています。建築に入ってからも、施主さんにマメに現場を見に来てほしいと思っています。
長谷川 家づくりの根本的な考え方としては、同じ部分が多いですね。うち独自の部分としてはドイツ、スイス、オーストリアの考え方を中心に自然素材をふんだんに使い、断熱や換気を工夫することで、冷暖房に頼らなくても快適に過ごせるパッシブ系をめざしている最中です。建て方に関しては日本風で、ドア枠、窓枠、床材などオール無垢材を使い、建材は一切使用していません。雨どいも塩ビは使わず、壁材には漆喰、塗装には蜜蝋やリボス、後は天然乾燥の杉の赤身にこだわっており、ウッドデッキなどに三重の木も取り入れています。その他には、サイディングやクロスも使わず、産業廃棄物の少ない住宅は作り手の義務だと思っています。うちも川瀬さんと同じで年間5棟限定でやっています。職人も同じく自信を持って仕事を任せられる方だけにお願いしています。
─やはり良い家づくりには、こだわりが沢山。では、地域の住宅業界の動向はいかがですか。
長谷川 現状、ハウスメーカーが大きなシェアを握っていますが私たちの様な地元工務店の魅力をより多くのお客様に知って頂くことが大切と思っています。そのために三重県の中でも、地元工務店が5社くらいコラボをして、横のつながりを深めたい。シェアに関しては、ハウスメーカーに勝てないのですが、我々のこだわり抜いた家づくりを見てもらい、お客様に「地元の会社も頑張っているな」と思ってもらえる機会を作りたいです。三重県は保守的でハウスメーカーのシェアが高いですが、岐阜県や静岡県にはメーカーよりも地元工務店が強い地域もあります。三重県でもレベルの高い地元工務店は揃っているのでコラボして、それぞれが非常に質の高い家づくりをやっていることをお客様に知って頂きハウスメーカーと競うために協力していけたら。
川瀬 すごく共感できるし、共通の考え方を持っています。特に津市は工務店同士のライバル意識が強く、お互いのことは気になるのですが、団結できていません。しかし、我々が本当にライバル視すべきは大きなシェアを持っているハウスメーカーなのです。昔は近所の腕の良い大工さんに家を建ててとお願いをすると「2年待って」というようなやり取りが普通にありました。しかし、今は家を〝建てる〟というより〝買う〟という感覚が若い方々に広がっています。なおかつ、どこに頼んだら良いかわからないので、まずハウスメーカーの展示場に行くということが多いです。だから、地元の工務店が集まって意見の交流会をしたり、一緒にイベントをして各社それぞれの良さをお客様に知って頂ける機会をつくることが一番大事です。
─工務店がお互いの物件を見ることで、高めあうこともできますね。
長谷川 自分ひとりで頑張っていても時代の流れは速いし、それぞれの得意不得意があります。また補助金などの情報共有や良い材料や仕入れの工夫などを共有できればメリットもあります。
川瀬 そうですね。私たちのような年間5~10棟の規模の工務店が10社集まるとちょうど大手と同じくらいの棟数になります。共同で仕入れを行えば、コストを下げることもできます。ただ、今の若いお客様の中には家づくりに対する知識が不足されている方も少なくないです。だから、とりあえず価格重視のローコストでと言われることも少なくないです。
─ただひとえにローコストと言っても後で補修が必要になったりと、トータルで見た場合、そう安いとは言えないケースもあるのでは。
長谷川 私はお客様に、家は総合的に見て、一生使うものとして買ってくださいと伝えるようにしています。ローコストが悪ということはありません。ただ、家を買われたご家庭の子供さんがちょうど大学に行く年になるころに、大きな補修が必要になるような材料は最初から使わないようにしています。初期投資にある程度のものを使っておけば、結果として、負担が軽くなることが多いことも事実です。
川瀬 後は会社に営業マンと現場監督を置いていないところですね。それに必要な人件費を全て家づくりに注いでいるので、同じ値段でも質の違いは感じて頂けるはず。
─家を売ったところで商売が終わるわけではないですよね。
長谷川 家を建てて頂いたお客様を集めて、子供さんが遊んで欠けやすい壁の漆喰による補修の仕方を伝えるなど、ご自身でできる家のメンテナンスの講習会を開き、家に愛着を持って頂けるように努めています。
川瀬 うちでも、家を建てて頂いた方とは一生のお付き合いですね。こちらから定期的にご連絡をするだけでなく、仲良くなったお客様からも私生活のことで相談を受けることもあります。
─ここまで色々とお話をされてきましたが、改めて、お互いについてどう思われますか。
川瀬 私と長谷川さんで一番共通するのはお互いが職人上りということ。私も大工として経験を積んできたので、全くそういう経験が無い方と比べると細かい部分まで気付いてお客様に伝えることができます。現場監督が居なくても、大工としての目線から現場の指揮をとることもできます。長谷川さんからは良い刺激も受けるし、勉強にもなっています。
長谷川 おっしゃる通り職人上がりというのは共通点ですね。リフォームなどの改修工事を経験しているかしていないかは大きな差を生むと思います。初めてお会いした時から、家づくりに対して向上心を持ち続け、ブレない川瀬さんの姿勢はリスペクトしています。
─お二人のように志を持った地元工務店が集まって一緒に頑張ることの大切さが理解できた気がします。
長谷川 上を目指すため、新しいチャレンジをしていくと、最初は失敗することが多いですが、そういう時に横のつながりがあると、お互いの経験に基づいた的確なアドバイスをし合いながら、良いものをつくっていくことができます。建築と一口に言っても奥が深すぎて自分で試せることなど、ごくわずかです。それぞれの考え方の違いはありますが、お互いの良いところをリスペクトし合うことが大切。三重県の工務店は自社の技術を隠すことが多いですが、全国の工務店と繋がることで、横のつながりの大切さを学ぶと共に県内でも、そういう環境をつくりたいと思いました。
川瀬 例えば、お客様を100人くらい招いて大手ハウスメーカーやローコストを売りにしたメーカーと、私たち地元工務店の家づくりのやり方の違いを知って頂く機会や三重の木の魅力を伝えたり、本当の意味での家づくりセミナーをやりたいです。それも5社ほど集まって、それぞれの社長の思いを聞いて頂ける場所を作れれば面白いと思います。
─消費者目線でも家づくりの選択肢が増えることは素敵ですね。ありがとうございました。
2019年3月21日 AM 4:55
<< 潮音寺で春の永代経 講師は傾聴僧の会の石倉代表 31日 三重調理専門学校卒業式 今年は35名が旅立ち 厳かな「包丁式」奉納も披露 >>