個人事業主や定年退職後の前期高齢者(65歳~74歳)などが加入する『国民健康保険(国保)』 が都道府県単位の運営へと移行してちょうど1年を迎えた。財政基盤の強化を目的に行われたもので、三重県内では大きな問題は発生しておらず、津市でも保険料は今年度も変更なし。しかし、加入者の減少と一人当たりの医療費の増加による保険料の高騰など、構造的な問題は依然として浮き彫りとなったままだ。

 

市町村単位で運営されてきた国保は、一昔前までは個人事業主が多かったが、現在は無職者や定年退職後の65~74歳の前期高齢者が多くを占めている。高齢化による医療費の増大と加入者の減少が止まらず、ほとんどの自治体で苦しい財政状況だったため、国は財政基盤を強化するために年間3400億円の財政支援を行い、都道府県の運営に移行。ただし、保険料の算定や、窓口、収納などの業務はこれまで通り市町村が実施。加入者に支払った医療費に応じて納付金を都道府県へ納める。
三重県内では各市町間で保険料(税)の格差があり、保険料(税)の算定方式は地域事情によって多様。本来ならば、同一県内では算定方式の一本化が望ましいとしているが、混乱を避けるために見送っている。
市町村の中には、保険料(税)を抑えるため、一般会計当初予算から意図的に法定外繰り入れを行っているケースもあったが、他県では市町村から県への移行によって、それが無くなったことによる負担増の発生が報じられた。しかし、三重県では県が補填したため、広域化による負担増はない。ちょうど1年経った今も各市町共に概ね、計画通りに進められており、大きな問題は発生していない。
しかし、財政基盤は強化されたとはいえ、予断を許さない状況は依然として続いている。三重県全体の加入者数は30年度推計で約39万2千人。加入者が使用した医療費は約1517億円。一人当たりに換算すると38万6477円に上る。平成25年度の加入者数が約46万3600人、医療費が1538億円、一人当たりで33万1810円。30年度と比較すると、加入者の減少と一人当たりの医療費の上昇は顕著。近年、毎年2万ほど加入者が減り続ける一方で、医療費は約1万円ずつ増加。平成31年度推計では、加入者約37万人で一人当たりの医療費も40万円を超える見込み。今後も団塊の世代が75歳に近づき後期高齢者医療制度に移行するタイミングで、加入者数減と医療費は上昇していくとみられる。
津市の加入者数は今年1月末現在で3万6145世帯5万5417人。平成21年度に料率21%の大幅値上げを行い、基金を積み立てた事で、昨年度に続き今年度も現行の保険料を維持できる見込み。納率も年々回復しており平成30年度も29年度の91・27%を上回る見込み。ただし、加入者数の減少は顕著で平成24年度の4万1701世帯6万9032人と比較するとわずかの期間に大きく減っていることが理解できるだろう。医療費は平成29年度で228億7100万円、一人当たり38万7800円。
当然、加入者の保険料(税)は、加入者一人当たりの医療費の支出が反映される形となっているが、現状でも高騰が深刻化している。県が示すモデル世帯(夫婦2人40代、子供2人の世帯収入300万円)に当てはめると津市の年間の保険料58万7000円と収入に対して非常に高額。
三重県の伸び代として挙げられるのが、医療費の適正化や保険運営の安定に努めた自治体に交付金が得られる「保険者努力支援制度」。生活習慣病の原因となる40歳以上を対象としたメタボリック症候群の特定検診は平成28年度で全国36・6%に対して、42・1%と上回っているが、診断された人を対象とする特定保健指導の実施は全国26・3%に対して15・2%と低迷。その他、生活習慣病の予防など地道な施策を続ける必要がある。
だが、少子高齢化による社会の構造上の問題を抱える国保は、低所得者が大勢を占める中、加入者の保険料(税)を上げて対応し続けるのは、限界といえる。一時的に安定化しているとはいえ、国保の抜本的な制度改革が必要となることは、地方の現状からも浮き彫りとなっている。