帰宅して車を駐車場に入れようとしたら、そこに人がいた。うちの駐車場で何をしている?手前で停車して、今から駐車場に入ることをアピールしたが、その人は気づかない。我が家に用があるわけではないらしい。向こうを向いて何かに集中しているようだ。
「すみませーん」車の窓を開けて、私は声を掛けた。でも振り返らない。小さくクラクションを鳴らしてそろそろと車を進めてみたが、それでも気づかない。しかたがないので、そのまま待った。待って観察を始めた。
少年のようだが若い女らしい。背はかなり高い。ショートの髪で半分隠れた耳に何か見える。イヤホーンだ。だから聞こえないのだと納得した。
待つこと数分。女は私の車を振り返ることもなく、道に出て向こうに歩き始めた。最後まで、自分が邪魔をしていたことに気づかなかったようだ。
何も謝ってほしいわけではないけれど……と考えた。あまりに無防備に過ぎると思ったのだ。すぐそばまで車が来ていたのに、気づかないなんて危険ではないか。世間には若い女を狙う悪いヤツもいるだろうし、ひったくりのターゲットになるかもしれない。
イヤホーンを付けてスマホに見入ったら、そこは自分の部屋と同じだとでも思っているのだろうか。道端はそんなに安全ではない。せめて片耳はイヤホーンを外して周りを見なさい。     (舞)