伊勢自動車道西側の国道165号沿いの風景

伊勢自動車道西側の国道165号沿いの風景

帽子を被ったお地蔵様(津市庄田町)

帽子を被ったお地蔵様(津市庄田町)

2月26日9時。国道165号を終点から遡る徒歩旅2日目。晴天。近鉄久居駅前に車を停め、徒歩で前回のゴール地点である伊勢自動車道久居インター付近まで戻る。
本日の目標は、ここから青山峠を超えた先にある近鉄大阪線の西青山駅まで約24㎞。距離もさることながら、難所青山峠が控えているため、かなりハードな一日となる。体力に自信はないが不安はない。なぜなら、人生はなるようにしかならないが、必ずなるようにはなるからだ。
早速、歩き始めた私は、伊勢自動車道の高架をくぐり西へと進んでいく。道路標識には名張の文字。津の外がようやく彼方に顔を出し始めた。10年ほど前に、スーパー、ホームセンター、飲食店などが並ぶ商業スペースが開発されたおかげで、インター西側の国道沿いも一昔前と比べると幾分にぎやかになっている。
この商業スペースのちょうど背後に広がる風早団地の奥にある「かざはやの里」では、この時、ちょうど梅が見頃を迎えていた。伊勢温泉ゴルフクラブの敷地の約半分に500本もの梅が植えられており、見応えは抜群。ゴールデンウィーク頃の藤、梅雨の紫陽花と共に毎年多くの人が訪れる165号付近の人気スポットの一つである。
更に西には、様々な企業の工場が立地するニューファクトリーひさい工業団地。そして津市の新名所として遠方からも多くの人が訪れるおやつタウンも、国道のすぐ近くにある。このような情報は、津市民であれば、皆さんがご存じであろう。だから私が本当に伝えたいのは、もっと〝些末〟なこと。普段、車で走っていても気づかず、通りすぎてしまっている景色の中にこそ、〝未知〟が存在しているからだ。
例えば、1日目も含めたここまでの行程。道路に沿って歩道が途切れず存在していることがなによりもありがたかった。国道163号を踏破した前回の旅で実感したが、歩道のある区間は道路の総延長に対して、わずかである。1960年代のモータリゼーションの台頭によって、車と歩行者の接触事故を避けるため歩道は普及したが、土地の狭い日本では、道路の幅員にも限界がある。そもそも私を含め、田舎の人間ほど日常的に歩かないので、歩道という存在は設置から保守まで考えると、コストパフォーマンスが非常に悪い。人口が多く交通量の多い区間や安全を確保したい通学路が中心となるのは致し方ないといえる。
ただ実際に自分が歩くとなれば話は別。歩道のない道路は歩行者通行禁止ではないが、単純に危険である。白線の内側の路側帯すらない場所も多く、細心の注意を払うのは当然としても、最後はドライバーを信じるしかない。だから、読者の方には、まかり間違っても、私と同じように国道を歩いて追体験しようとは考えないで頂きたい。
ようやく津市庄田町の交差点。ここから先は、いよいよ歩道が消える。危険地帯突入前に気を引き締めるべく軽く頬を叩くと、交差点の南側におあつらえ向きにお地蔵様がまつられているのを発見。すぐに駆け寄ってみると、交通安全と書かれた台座の上に鎮座するお地蔵様はなぜか深々と野球帽をかぶっている。車で何度もここを通ったことはあるが、初めて気が付いた。
私はお地蔵様の正面に立つと、慇懃に一礼し、手を合わせ道中の安全を祈る。敬虔な心持ちで祈ろうとしたが「よく見ると帽子だけでなく、赤い前掛けと数珠の首飾りも洒落ているな」、「帽子にはどんなエピソードがあるのだろう」などと、妄想は膨らむばかり。当然、お地蔵様はそんな不心得者の心中など、お見通しであろう。しかし「お地蔵様がそんなつまらないことで怒るはずもなく、必ず守ってくれる」と言ってのけてしまうのが不心得者が不心得者たる所以である。冗談はさておき、いよいよここからが本番。油断は禁物だ。(本紙報道部長・麻生純矢)