言語聴覚士の新谷さんが   発達障害の子の支援語る

 

発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人。最終回は当連載のコーディネーターで、言語聴覚士として発達障害を持つ子供の支援を行う新谷麻衣さんが語った。(敬称略。聞き手は本紙記者・小林真里子)

 

 

新谷麻衣 さん

新谷麻衣 さん

──当連載を振り返っていかがですか?
連載企画を暖かく実現して下さったことに何よりも感謝しています。発達障害という言葉は広まってきましたし、社会で皆がまぜこぜになり暮らしているものの、「実際どんなふうなのか」は専門書や単発的な報道では伝わりきらないんです。
私は学生時代から「アスペ・エルデの会」に所属し多くの当事者や関係者とお会いしてきました。訓練室などの改まった場ではなく、雑談している時に面談で語られなかった生活の背景がふと語られたりして、聞き手として点と点が繋がることがとても多いんです。また「ライトイットアップブルーみえ」で展示する、当事者などから社会へ向けた「目は合わないけど聞いてます」のようなメッセージが、どんな専門書よりも理解に役立つと実感しています。
このような、支援に必要な金言を生む「雑談という宝物」や皆さんの思いを、沢山の人に届けられる連載ができたことは画期的だと思います。
──発達障害の子の支援の中で、特に印象深い場面を教えてください。
やはり本人や親御さんが、「他者との違いを受け入れる」瞬間ですね。特別支援級の利用を打診された時のご両親の表情や、ふと「僕が皆と違う部屋で勉強しているのは僕がダメだから?」と聞いた子、「発達障害と診断をつけたら何かこの子が変わるんですか!?」と興奮が抑えられなくなったお母さんもみえました。曖昧な言葉でその場凌ぎの対応をしてしまうと実態と本人の気持ちとの間にねじれが生まれ、拗れてしまう恐れがあります。かと言って、身も蓋もない言葉で現状を直視させるのは危険です。
特に保護者は、子供の将来を思って転ばぬ先の杖を用意したいと、即効性のある解決法を求めて相談される方も多いです。その焦りや不安を受け止めながら、日々のエピソードを聞き、そこからお子さんの成長をしっかりキャッチして伝える。「自分の子と他の子との違い」に気づき始めたり、子供が就学前などで気づきを促したい方には「発達障害」という言葉は使わないようにします。
発達障害と診断されたらその途端、その先の人生の方向性が定まってしまうと思われがちですが、実際の日々はもっと細かいステップで色々なことに向き合いながら過ぎていきますし、当事者の状態は千差万別で、日によって(時には分単位で)変わるので何も一括りにできないんですね。
私も親として同じ経験をしましたが、長年専門としている分野にも関わらず動揺しました。連日夜通しの夜泣きや公共の場でのパニック、きょうだいへの申し訳ない気持ちや自分の親世代との思いの食い違いで苦しい経験もしました。それでも、毎日が地獄のように暗いわけではなく、しんどい中でもちょっとした子供の姿が愛おしかったり面白かったりしましたし、今でもトライ&エラーを繰り返しています。子供の姿と自分の姿、周囲の姿を多角的に見ることで「陰が陽になる」というか、柔軟性が鍵になるんです。  (次号に続く)