水厳かに 津市芸濃町椋本出身の文筆家・伊藤裕作さん(70)の歌集「心境短歌 水、厳かに」が人間社より出版された。189頁。1650円(税込)。
伊藤さんは、津高校を卒業後、寺山修司への憧れから彼と同じ早稲田大学教育学部へ入学。寺山を真似て短歌も始め、早稲田短歌会に所属。卒業後は風俗ライターとして活躍し、裏社会を生きる現代の娼婦たちのはかない生き様を描いた著作も発表している。還暦となる60歳を機に故郷に恩返しがしたいと、東京と芸濃町行き来する生活を開始。地元有志と「芸濃町を芸濃い町にする会」を立ち上げ、東京の劇団の公演を誘致するなど文化振興にも貢献。津市文化奨励賞、斎藤緑雨文化賞も受賞している。
古希という節目に出された歌集は、早稲田大学時代の初期作品による起の章、風俗街を飛び回っていた1988年に発表した短歌集の作品による転の章、還暦から再び読み始めた歌をテーマ毎にまとめた転の章、60歳~69歳から詠んだ歌を年代別にまとめた合の章の4部構成。社会の表と裏の狭間を垣間見続けてきた伊藤さんならではの鋭い視点で描かれた550首を収録。
合間のエッセイ「この世の果てまで、こぼれてゆけ」は、人生の終わりを思い描けず苦悩する伊藤さんの心に振ってきた親交の深い劇団・水族館劇場の作品のセリフを表題にしている。そのセリフを胸に、古希を前にピースボートでこの世の果てをめざす旅に出た伊藤さんが、真宗の教えを礎に、人生の終わりをイメージするまでの様子も描かれている。
本は書店のほか、アマゾンなどでも購入可能。