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まずは拝殿の前で道中の安全を祈る。その後、拝殿の脇に置かれている帳面に目を通すと、参拝者の名前と住所が並んでいる。近隣の人以外には、大阪や兵庫など、関西方面の人もチラホラ。阪神大震災で大きな被害を受け、誰よりも地震の恐ろしさを知っているからこそ、関係しているかもしれない。拝殿の脇にある社の中に祀られている要石は鹿島神宮(茨城県)の祭神・武甕槌命(たけみかづちのみこと)と香取神宮(千葉県)の祭神・経津主命(ふつぬしのみこと)が関東から三笠山(奈良県)に向かう途中で、この地で休息した際に授かったという縁起が残っている。葦原中国を平定した両武神の力が宿る要石は大地のナマズをしっかり抑え、地震から人々を守っているといわれている。ナマズはこの神社のシンボルにもなっており、境内に石像がある他、絵馬に描かれていたり、可愛い願掛けの置物なども参拝者の人気を博している。また、拝殿横の極彩色に彩られた宝殿は、安土桃山時代の建築物で国の重要文化財にも指定されている。興味深いものが沢山あるので、ゆっくりと散策したいところだが、後の行程が控えているため、足早に神社を後にする。
そこで後日、改めて、神社に立ち寄り金山修宮司から色々なお話を聞かせて頂いた。境内の隣地を整備した丘から、初瀬街道沿いの重要な宿場町であった旧阿保宿を見下ろす。街道からもほど近いことから、伊勢神宮をめざす旅人の多くが訪れており、菅笠日記の中でも、本居宣長も立ち寄った時の様子を記している。そして、遠くに目をやれば、神々が住まう奈良県の山々まで見渡すことができる。今でも関西方面から国道を165号を通って伊勢神宮をめざす人たちの参拝は多く、街道の歴史はひそかに受け継がれているのだ。
この素晴らしいロケーションや境内の貴重な建物もさることながら、お話の中で感動したのは、氏子たちの信仰心の篤さだ。境内には、各町内の氏子の名前が書かれた寄進札が並んでおり、中には結婚などで遠くで暮らす人の名前も。草一つ生えていない美しい境内は婦人会の定期的な清掃活動の賜物という。また、金山宮司も、自ら地元の子供たちが参加するボーイスカウトで子供たちに様々な体験をする機会を提供するなど、決して押し付けない自然な形で神社との接点を見出していることにも感銘を受けた。
神社から少し離れた場所にはなるが、祭神である息速別命(阿保親王)の陵墓と伝わる古墳があり、宮内庁の所管となっている。田畑の真ん中に、木々が生い茂る陵墓が綺麗に残されている様子にロマンを掻き立てられる。実際に息速別命がここに眠っているかどうかは、考古学的に諸説あるようだが、息速別命は今も親王さんと呼ばれ、地元の人たちから親しまれている。息速別命の領民への惜しみない愛情が、地域の誇りを育み、今も神社の信仰を支えていることは疑うべくもない。久遠の思いが信仰を紡いでいるのだ。(本紙報道部長・麻生純矢)
2020年9月9日 AM 11:15
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