統廃合等で役割を終えた公共施設の利活用と多文化共生は行政が抱える大きな課題。津市芸濃町北神山では、閉園となった『旧津市立安西雲林院幼稚園』を、津市が外国人技能実習生を教育支援する組合との賃貸契約を結んだことに対し、地域住民が反発している。今後の社会情勢を踏まえると、いずれ様々な地域で類似の事例が起こり得る可能性があり、広く、どう向き合っていくかを考えるべき事例といえる。

 

 

「旧安西・雲林院幼稚園」

「旧安西・雲林院幼稚園」

旧安西雲林院幼稚園=津市芸濃町北神山=は、芸濃地域の幼稚園と保育園を統合して整備した津市立芸濃こども園に統合される形で令和2年3月末に閉園した。園舎は築40年ほど。床面積が436㎡の鉄骨平屋建で堰堤を含む総敷地面積は約1250㎡。
少子高齢化による人口減少が加速していく中、公共施設は新たに建てる時代から、既存の施設を管理しながら、地域の人口やニーズに合わせて役割を集約するために統廃合していく時代となっている。同園のように役割を終えた公共施設は、必要に応じて利活用したり、土地や建物を売却して処分し、歳入を確保するといった判断が行政に求められるようになっている。
津市では、役割を終えた公共施設が出た場合、まずは近隣の地域住民に利活用案があるか確認している。今回の安西地域の場合も、地域住民に確認はとったが、同園に隣接する旧安西小学校を地域のコミュニティスペースとして活用しているため、利活用案は出なかった。確認後の昨年4月、6カ国(ベトナム、モンゴル、中国、フィリピン、タイ、インドネシア)から受け入れた外国人技能実習生に日本語教育を施し、日本全国の企業にマッチングを行っている協働組合「亜細亜の橋」=津市芸濃町椋本、小倉武俊代表理事=から日本語研修の場として使いたいとの申し出が施設を所管する津市芸濃総合支所にあった。支所は昨年8月、当時の北神山自治会役員に対し、同組合から利活用案が出ていることを伝えていた。ここでのやりとりから地域住民側としては、正式に契約を結ぶ前に、市が事業者の紹介や利活用案について、説明会を開くものと認識していた。しかし、両者の認識に食い違いがあり、地域に情報が十分行き渡らないまま、市は今年2月1日から3月10日までインターネット上と総合支所への貼り紙による公告を実施。公平・公正を来すために、他の利活用案のある候補者を募ったが申請は無く、事業の公共性などを評価する審査を経て同組合と市は正式な賃貸契約を結ぶこととなった。
今年4月、両者の契約が結ばれた事実を支所の担当職員から報告された北神山の自治会役員は驚き、〝事後報告〟だと強く反発。市とは前向きに話し合う場を持つ姿勢は見せているものの、「まだこのことを知らない地域住民も多い。納得のいくように話をしてほしい」と憤りを隠せない。同支所の担当職員は「地域の皆様にご理解を頂けるように話をしていく」と陳謝する。また、同組合の小倉代表理事も「施設を実習生の研修に使うのは年間40%ほど。残り60%は地域で暮す外国人就労者や子供に対して日本語教育や日本文化への理解を深めたり、地域交流するボランティア活動の場としても活用したい」と説明した上で、「地域の皆様との話し合いにも参加したい」と語る。
今後も役割を終えた公有財産の適切な管理は行政の大きな課題となるが、維持管理コストなどを加味した市全体の利益を考える大局的な目線と、立地する地域のニーズを考える局所的な目線を両立した非常に繊細なかじ取りが求められる。
とりわけ幼稚園や小学校は地域住民の思い入れが強く、統廃合の議論でも意見が分かれやすいデリケートな場所。地域住民からある程度の同意や協力を得るためには、正確な情報を拡散した上での話し合いが必要となる。しかし、地域コミュニティのあり方も変化しており、ひと昔前のように地域の取りまとめができる〝顔役〟は稀有な存在に。地域全体に正確な情報を浸透させること事態が難しくなっている。
また、外国人の労働力に期待する場面が増えたこともあり、多文化共生は身近なキーワードにもなっている。特に北神山は、北神山工業団地で働く外国人労働者と地域住民との間で交通マナーなどを巡る日常的な摩擦が住民の反発を招いた側面もある。一方、外国人に日本語や日本文化を適切に学ぶ教育を施し、社会から脱落しない環境を整えることが結果としてマナー向上や、犯罪抑止に繋がるのもまた事実。同組合のような存在も、社会に求められている。
今後も増えていく役割を終えた公共施設の適切な利活用と多文化共生は市政の大きなテーマ。その二つが同時に顕在化したのが今回の事例といえる。社会情勢的に同様の問題は、どの地域でも起こる可能性があるだけに市として一層慎重な対応を心掛けるだけでなく、市民全体で、どう向き合うか考えるべき問題と言えるかもしれない。