2021年12月

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著者の西村訓弘さん

著者の西村訓弘さん

三重大学地域イノベーション学研究科教授の西村訓弘さんによる著書「社長100人博士化計画」が12月1日、月兎舎より発刊された。
南伊勢町に生まれた西村さんは、企業の研究員やバイオベンチャーの経営者を経て、三重大学医学部教授となり、2009年には同大学地域イノベーション学研究科の創設に関わり現在に至る。
同科では、地域企業の社長らを学生に受け入れ、事業に関するテーマで研究を進めてもらい博士号の取得を目指している。博士となった社長がリーダーとなり、小さなイノベーションを群発させれば、疲弊した地域も甦る、との思いからだ。 なぜ田舎に人々が住めなくなったのか、地域イノベーション学研究科はどういう経緯で生まれたのか、社長が博士になると地域はどう変わるのか。本書では、西村さん自らの体験を基に考えた地域イノベーションの本質を明示。博士社長達の取り組みを紹介しながら、既成概念を創造的に破壊して、もの、ひと、ことを組み直し、新たな結合を生み出すイノベーションにより、地方が負っていた都会とのハンディキャップ(地域格差)を解消し、どんなに疲弊した場所からでも新たな富みを生み出す理想的な未来像を示している。
構成は、第一章=私の原点、第二章=バイオベンチャーのトップからアカデミズム畑へ、第三章=なぜ田舎に住めなくなったのか、第四章=社長100人博士化計画始動、第五章=博士社長たちと拓く新しい地域社会。
巻末には、「地域の潜在能力をいかにして引き出すか」をテーマに、西村教授、㈱マスヤグループ本社代表取締役の浜田吉司氏、発行人の月兎舎代表・吉川和之氏のてい談も掲載。
コロナ禍の今だからこそ、経営者、県や市町の職員、第1次産業の従事者、学生など、様々な人々の参考になろう。
四六判196頁、税込1320円で県内主要書店、WEBで取り扱い。
問い合わせは月兎舎☎0596・35・0556。

介護職員初任者研修など介護の資格は持っているけれど、「介護職の経験がない」、「何年も介護の仕事に就いていない」など、介護の職に就く事が不安な人や、復帰したけれど、もう一度『介護の基本』を学び直したいと考える人(就労または復帰後概ね1年未満の人)を対象に、介護の知識や技術のスキルアップができる研修会を開催します!
三重県福祉人材センターが「介護有資格者再チャレンジ研修(Web研修)」の受講者を募集している。
▼対象者は介護福祉士、介護職員初任者研修などの福祉・介護に関する資格を有しながら現在は介護の仕事に就いていない又は介護職として就職・復帰後、概ね1年未満の人
▼受講期間=令和4年2月18日㈮までのうちの3週間(申し込み後、同会より日程を提示。申し込み締切は1月21日㈮まで)
▼研修内容=7科目(10時間)介護保険制度の動向、尊厳の保持・自立支援、コミュニケーション技術、認知症の理解・ケアの知識、老化の理解、感染症対策・感染症予防、ほか。このほか、希望者は「実技研修」と「施設体験」を受けることもできる
▼受講方法=同会から配布する資料及び講義動画を視聴し、各科目修了後にレポートを提出
定員150名先着順。受講料は無料
※Web研修の受講にはインターネットに接続したパソコンが必要だが、ネット環境が整っていない人は応相談。
問い合わせは同人材センター☎059・227・5160へ(平日9時~17時)。

前号に引き続き、今回も空き家問題を取り上げる。津市の空き家対策が着実な成果を上げる裏で、ある読者より「近所にある空き家問題で困っているが、行政に相談しても解決せず、どうしたら良いのか分からない」との一報を受けた。現地に足を運んでその空き家を調べてみると、行政も対策に手をこまねく事情が見え隠れする。

 

屋根が崩れて危険な所有者不在空き家

屋根が崩れて危険な所有者不在空き家

旧街道沿いの宿場町として栄えた往時の風情が残る津市芸濃町のある集落に件の空き家はある。木造の平屋建で、軒は瓦の重さで曲がり、壁土が風雨で浸食されむき出し。家の土台の一部も崩れ、ブロックをかませて支えている有様。地域住民による推定築年数は70年以上。そんな危険な空き家は県道に密着しており、子供を含む地域住民が日常的に徒歩や車で往来するだけでなく、路線バスも通っている。
この空き家は、十数年前に所有者が死去し、その子供が相続。同じ敷地内には先述の木造平屋以外にも鉄骨造りの家も建っている。相続された時点で既に家が傷んでいたため、今回悲痛な声をあげた当時の自治会長だった男性は適切な管理を打診していた。しかし、その願いも空しく、どんどん空き家の状況は悪化。時折、屋根から瓦が県道側に落ちて危険なだけでなく、台風や地震がくれば倒壊するのではと地域住民は不安を抱え続けてきた。自主的に空き家に近づかないようバリケードなどを置こうとしても、敷地が県道に密着しているのでスペースもとれず、県道上は許可も下りない。もちろん、個人資産である以上、他者が空き家に手を加えることは不可能。市に対応を呼びかけ続けているが、一向に進展が無く困り果てていた。
津市に状況を確認したところ、この空き家は現在、相続人全てが相続権を放棄した所有者不在の状態にあるという。津市では「空家対策特別措置法」に基づき、倒壊の恐れがあり、周囲に民家や交通量の多い道路がある特に危険な「特定空家等」に認定している。この空き家も認定されているため、本来であれば、所有者に対して修繕や解体を求めることが可能で、応じない場合は住宅地の固定資産税の優遇措置の解除や、強制的に解体を行い費用を請求する行政代執行が行える。しかし、所有者不在の空き家には、これらの対応をとることができない。
この家を処分する方法は大きく二つ。一つは略式代執行。所有者に解体費を請求する行政代執行と違い、解体費用は全て市持ちとなるのが欠点。もう一つは、財産管理人制度の利用。市が弁護士や司法書士などの専門職に依頼して財産管理人を定め、空き家を解体した上で、土地の売却などを行うことができる。ただし、専門家への報酬など諸経費が必要で、土地の売価が解体費を下回る場合や土地が売れない場合、略式代執行よりも費用がかさむ可能性がある。相続放棄される土地は、資産価値が低いことが多く、不要な土地を抱え込むリスクもはらんでいる。津市が二の足を踏む理由はこれらにある。
津市が認定した特定空き家の中でも、この空き家を含めて現在3件が所有者不在。津市としては緊急性のある空き家から対応するとしているものの、この3件については完全に白紙状態。
先述の元自治会長の男性は「せめて危険な県道に面している部分だけでもなんとかしてほしい。土地の売価で解体費用と相殺できるかを検討してほしい」と訴えかける。
相続放棄による所在者不在の空き家問題は全国各地で顕在化している。実は最後に相続放棄した者が法的には空き家の管理責任者になっており、破損や倒壊で被害が出た場合は責任を追う義務が発生する。だが、財産権を手放しているので、空き家の適切な管理を法的に強制できない。矛盾するようにも感じる責任所在のあいまいさが問題に拍車をかけている。
ただ今後も相続放棄による所有者不在の空き家の増加は確実で、国による法整備などの対策が予想される。最前線で対策に取り組む市としても市民の生命と財産を守るために、一歩踏み込んだ対応が求められる場面もあるだろう。

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