新春を寿ぎ謹んでお喜び申し上げます。
昨年は新型コロナ禍の中、自粛生活を強いられました。その中で行われた東京オリンピック・パラリンピックも無事に終わることが出来ました。又、昨年の暮には新型コロナウイルスの新たな変異株も出て、どうやら今年も慌しい年になりそうです。お互いに実り多い年になりますように努力してまいりましょう。
新しい年を迎え、今回はおめでたいお正月の小唄「初卯詣り」と梅と鶯を題材に初春らしい「君が仰せ」の小唄二題をご紹介いたします。

初卯詣り
詩・曲 初代平岡吟舟
初卯詣りの 戻り道 足も千鳥の酒機嫌 竹にぶらぶら ありゃ何じゃ虎 虎虎虎
初卯詣りとは正月の初卯の日に(現在では一月二十五日)、大阪では住吉神社、京都は石清水八幡、東京では亀戸天満宮境内の妙義神社に参詣する習わしがありました。境内には有名な藤やつつじの他に茶店もあり、初卯詣りがすんで、境内の茶店で一杯やって、すっかり虎になった参詣人の一人が繭玉の先に張子の虎をぶらぶら下げて歩く人を見つけ、ありゃ何じゃという言うもので、虎の玩具と酒を飲み虎になった人とを掛けています。初春の呑気な姿をこの小唄は気軽に思うがまま、面白く唄っております。
君が仰せ
作者不詳 明治中期
君が仰せを初音に聞いて いとも畏き鶯の 小枝にちょっと移り気な 此方の心をそよそよと 空吹く風が憎らしい

この江戸小唄は、自分を梅、男を鶯にたとえて、浮気な鶯を恨む女心を唄ったものです。
この小唄は、平安時代の物語からきていて、先ず冒頭の「君が仰せを初音に聞いていとも畏き鶯の」までは「鶯宿梅」の古歌、「勅なればいともかしこし鶯の宿はと問はば如何答えむ」の上の句の調子をとったものです。紀貫之の娘の唄だと言われています。この和歌の意味は平安時代、村上天皇の清涼殿御前の梅が枯れてしまい、代わりの梅を探し歩いた所、西の京に紅梅の香り高き梅を発見し、梅を献上してほしいと申し入れた所、「君の仰せとあらば、何で否やと申しましょう。しかしこの梅を献上したのち、この梅を毎年のように宿として訪れる鶯が今年も来て、私の宿はと聞かれたら、何と答えたらよろしいでしょうか」と言う和歌を梅の枝に結びつけて奉じました。これを読んだ天皇は深く感じて、梅を返され、それ以来、この梅を「鶯の宿の梅」鶯宿梅と名付けられました。
小唄の解釈は、私は貴方の言ったあの一言を鶯の初音のように嬉しく聞いて、添える日の一日も早いことを願っておりますのに、貴方は浮気鶯のように、他所の梅の木にちょいちょいと移って、私の心を知りながら、私の言葉を「空吹く風」のように聞き流しているのが、本当に憎らしい、といった所です。

春まだ遠い季節です。寒さ厳しい中、くれぐれも体調を崩されないよう気をつけられ、お健やかに過ごされますように。マスクのいらない日常の生活が一日でも早く来ることを、願っております。
小唄 土筆派家元
参考・木村菊太郎 著「江戸小唄」

三味線や小唄に興味のある方、お聴きになりたい方は、お気軽にご連絡下さい。又、中日文化センターで講師も務めております。稽古場は「料亭ヤマニ」になっております。電話059・228・3590。